“機体” “気体” は普通名詞、
“期待” “帰隊” は名詞かつ「キタイする」となる動作性名詞、
“希代(稀代)” “奇態” は名詞または形容動詞語幹、
“着たい”、“来たい” はそれぞれ “着る” “来る” に要望を表す助動詞「たい」を接続した形です。
それぞれ文脈や活用が異なるので衝突を生じるとは限らないですが、「それ、キタイです」のように助詞や敬語表現を省いたりすると 候補が多くて判別の難しい語群となります。
「タイ」と読む漢字のうち、体
隊
帯
態
などは単語の末尾に現れることが多く、分かち書きを嫌う運用では 助動詞の「たい」と出現位置が重なるケースが 時々あります。これらには 何らかの別の読み方が あったほうが 日本語としては使いやすくなります。
まず、使用頻度が低い方から対応します。
“希代” は “希代の大悪党” とか “希代の英雄” など ある程度 決まり文句で用いられることの多い形容動詞語幹ですが、「近代まれな」「近年まれに見る」など簡単な表現に言い換え可能です。
希
の字は布を細かく交わる重ねたことを言い 水や空気が漏れない、まれである ことを言いますが、“希望” のように 望む(のぞむ) という意味合いを含むことから正確にするため稀
という字が生まれました。しかしその後の漢字の簡略化で稀
の使用が制限され希
を使うようになりました。「のぞみ」の意味では望
や臨
の字があるので希
の代わりに稀
の字を無理に使う必要はなく、“稀代” は “希代” で十分です。
この語句は「キタイ」ではなく「キダイ」の読みと両方用いられます。代
を「タイ」と読むのは “代謝”(タイシャ) “百代”(ハクタイ) など熟語としては限られています。ただ同じ字を声符としてもつ貸
の字があり、“貸与”(タイヨ)・“貸借”(タイシャク)・“賃貸”(チンタイ) など こちらは「タイ」の読みが一般的です。ズレがあって少し覚えにくいですが、代
の「ダイ」の方が熟語は多いのでこちらを採用したほうが 有効です。
濁音を採用化したくない場合、前の字に促音(ツ) や撥音(ン) を付ける技法があります。例えば 目玉は「めだま」ではなく「めンたま」のようにしたり、葉々(葉+葉) で「ハバ」でなく「ハッパ」と読むといった具合です。漢字熟語には適さないやり方ですが、“奇怪”(キカイ) を「キッカイ」と読むなど 口語表現ではしばしば登場します。
この理屈で言えば “希代” は「キダイ」の代わりに「キッタイ」とすることができます。
同様に形容動詞として使われる “奇態” も「キッタイ」とすることができます。
態
の字は能
の字に心
をあわせた字ですが、能
の字は通常「ノウ」や「ノ」と読みます。この字は 肉を獲得した熊(クマ)など大型の動物を表しており、能力が優れていることを示しますが、態
はそのような強い心を示す会意文字です。この字は体毛を引き抜く様子を示した耐
の字の置き換えとして用いられ、そのあたりから「タイ」の読みが写ったという説があります。しかし能
の「ノウ」の読みから離れていて関連が分かりづらい点を考えると、「ノイ」「ナイ」あたりに移行させたほうが理解の助けになる可能性があります。
仮に「ナイ」のケースだと「キナイ」では“機内” などと紛らわしいですが、先に示した撥音化を組み合わせて「キンナイ」とすると衝突がなくなります。「キノイ」なら ン を加える必要はありません。
“奇態” という単語は あまり使用頻度の高い単語ではありません。しかし態
は “様態”vs“幼体” や “変態”vs“編隊” などいくつかの局面で衝突があり、形声字でなく熟語が少なく 副作用が小さいため、積極的に変更することが 有効な文字です。
“帰隊” は「隊に帰る」の意味で、部隊か何かに所属していなければ使うことのない単語なので、変更の必要は あまりないでしょう。ただ 隊
の字は、“体調”vs“隊長” “退院”vs“隊員” “部隊”vs“舞台” など 同音語を多く持ち、先に挙げたように末尾にあることもあり、これも変更の有用な文字の1つです。
部の構成に㒸
を持ちますが、“遂行”(スイコウ)の遂
や “墜落”(ツイラク)の墜
など どちらかと言うと「タイ」よりも「ツイ」「ヅイ」「ドゥイ」の ように、母音に ui の音があると見られます。普通話拼音でも「トゥイ↘︎」(dui4)が使用されます。
“ツイ”(tui) と書いて、「トゥイ」と読んでも良いでしょう。ツアー や ツリーなどタ行のカタカナ語によくある一種のバグの逆利用です。あるいは ゥ
の代わりにワ行音を入れて「トヰ」でも良いかもしれません。
“着たい”・“来たい” についてはともに動詞と助動詞の活用の問題です。どちらも語幹が漢字部分のみの 日本語としては比較的 少ないタイプです。
“○る” の形の ほかの動詞 “取る” “知る” “折る” “ある” “貼る”、他に “着る” と 読みの同じ “切る” は、いずれもラ行5段活用で 「切りたい」のようになるので 末尾にラ行を持たない漢音の熟語とは 一切衝突は起こさないようになっています (韓国語や英語などは別)。“着る” のほか “見る” “出る” “居る” あたりは そのルールに沿いません。
“来たい” に関しては 話し手の立ち位置が 行き先と同じ場所にあるので「来る」になるのですが、これは「行く」に置き換えてもほぼ問題はありません。「来たい」ではなく「行きたい」にすればこの局面では回避できるでしょう。
“着たい” は “着けたい”(つけたい) と言い換えられますが、どうしても 腕時計やメガネなど 何か小物をイメージさせる語感を伴うせいか、それぞれ別の意味として使われることが多くあります。“身に着けたい” といえば “着たい” とほぼ同義ですが、これは 何か技術を体得することとの誤認の可能性があります。
靴や ズボンのように下半身なら 「履く(はく)」、帽子のように頭なら「かぶる」のように部位によって言い分けることができますから、“はおる”、“まとう”、“そでをとおす” などに表現を変えることも考えられます。
状況によって「試しにやってみたい」のニュアンスを持つ「着てみたい」の方が簡単で良いかもしれません。
本当に変更が必要なら、音読みの「チャク」からとって「チャクする」や、「かぶる」などの例に沿って「キブる」「キムる」「キユる」のような新しい日本語の動詞を生み出すかでしょう。この場合「キブりたい」「キムらない」「キユります」のような五段活用を取ると分かりやすいと考えられます。
期待・気体・機体
固有名詞の “北井” などを除いておそらく使用頻度が高いのは “期待”・“気体”・“機体” のあたりでしょう。
このうち “気体” と “機体” は 体
が共通しているため 前の気
と機
をどうにかする必要があります。
気
に関しては 熟語が極めて多い字で、うかつに変更はできません。しかし気
には“気配”(ケハイ)や “湿気”(シッケ) の「ケ」の読みがあり、この読みを用いるのが最も簡単です。
体
の字は體
の新字体ですが、漢音で「テイ」の読みもあります。会意文字のため 読み代え が他に影響を与えることはありません。これらを組み合わせると衝突をかなり回避できます。
期
は「キ」の漢音にくわえ、“最期”(サイゴ)、“この期(ゴ)に及んで” などで用いられる「ゴ」の呉音もあります。
期
を語頭で「ゴ」と読む例は少なく 御
語
後
五
呉
誤
などとも紛らわしいので好んで使うべきとも言えません。この場合「ゴツ」「ゴン」「ゴク」「ゴウ」のように目立たない子音を足すか母音を伸ばすなど考えられます。または他の「ギ」「グ」「ゲ」あたりの母音移動も使えるかもしれません。
期
は其
を声符としてもつ形声字で、同じように「キ」または「ゴ」と読む字には基
碁
箕
が あります。あまり掛け離れた音にしてしまうと他に影響が出る恐れがあります。
一方で 待
の方に着目すると、読みとしては「タイ」しかありません。中国普通話でも「タイ↘︎ (dai4)」で、拼音の英語式で文字通り読むと「ダイ」になります。彳
と寺
の合わさった字ですが、寺
はさらに土
と寸
の合わさった字です。寸
は小さく握った手を表し、土
は部としては地面に置いた足を示し、これは止
に分化しています。寺
侍
持
時
など すべて「ジ」または「シ」と読みますが、待
のみが異なる音を持つ会意字です。
このため音を変えるのであれば期
よりも 待
の方が適しているといえます。「タイ」からは「テイ」「トイ」「ツイ」、また濁音で「ダイ」「ヅイ」「デイ」などが考えられます。寺
の字が「ジ」と読むことからすると、「ディ」「ヅィ」などが音としては近いことになり、拗音を使わずこれに近いところなら「ヅイ」「デイ」が近いと言えそうです。