“首相”・“主将” は ともに普通名詞で、人のポジションを言う語です。形容動詞や他のものになることはほぼありません。
“殊勝” は 「シュショウな」となる形容動詞 (ナ形容詞) です。文脈的にこれらが全部が衝突するのは「○○はシュショウだ」のような文末で言い切りの形に限られます。
ここで用いられている漢字に共通する字はないので、片方ずつを変更すればひとまず回避が可能です。
殊勝
“殊勝” は「格別に勝さっている」とか「強さがある」という意味で、ここで勝
の字は 試合などに “勝つ” という行為動詞ではなく「勝さっている」状態の意味で使われています。かなり古くからある漢語ですが、“優勝する” “連勝する” “大勝する” のような動作性名詞と紛らわしいので、現代で使うなら “殊優” とか “殊秀” と書いたほうが字ヅラとしては 分かりやすいかも知れません。
殊
は単体で “殊に” の形で副詞をつくることができ、訓読みするのが簡単です。勝
も「まさる」と読むことができます。音読みの「シュ」をいじる場合は 同じ音を持つ朱
の音と合わせて変更しないと分かりにくくなります。
対して勝
の字は 分かりにくいですが 朕
(ジン/チン) に力
を加えた字で、月
+券
ではありません。また月
は舟
が崩れたもので、“肉” を表わす月
とは違います。舟を人々が手で浮かび上がらせる様を表しています。朕
を「チン」と読むのは皇帝を表す特殊な一人称で、読みは別のところから当てられたものとされます。
关
が付く送
などは「ソウ」の読みがありますが、勝
は 形も違って いろいろ混ざって良く分からなくなっています。その意味では比較的音の変更は自由です。“沸騰” の 騰
と合わせて「トウ」とすることも考えられます。
しかし「ソウ」も「トウ」もすでに多くの漢字があり、あまり使い勝手は良くありません。“勝利” を「ソウリ」では “総理” となり、「トウリ」では “党利” などと重なってしまいます。勝
の中国普通話を頼ると「ション」(sheng4) の読みがあります。この音は他の単語と重ならず、有効と考えられます。
首相
“首相” という言葉は、およそ明治維新前後に広まった著書 万国公法に端を発するとみられる、Minister of Prime または Prime Minister に当たる漢語訳で、首席-宰相から インスパイアされた単語とされます。ここで 相
の字は “宰相” からとっているので「ショウ」と読むことに意義があります。「ソウ」という読み方もありますが、これは “手相” や “人相” などモノの形相(ギョウソウ) を言っているので微妙に意味が変わります。
この文字は大臣を表わす略号として、 法務大臣を “法相”、外務大臣を “外相” と表記したりします。この相
は “相棒” の相
でもありますが、皇帝に対する補佐役、もしくは近代的には 議会で選出された者 の意味にあたります。制度の違う各国で要件は微妙に異なるため、法的に正式用語でなく 新聞用語の色が強いです。
同じ字を用いながら、音を必ず「ショウ」としないと意味が合わないという不便さがあり、理想的には漢字も一緒に変えておくべきものでしょう。たとえば “政治” の政
から正
をとって眐
とか、目
の代わりに臣
を使って栕
など 日本語で用いられない それっぽい空き字はあります。“首栕” と書いても案外そのまま通るかもしれません。
“首相” を入力の必要がある場合は、ひとまず「くびショウ」と訓読みを入れると良いです。この読み方は “首長”(シュチョウ) を「くびチョウ」と呼ぶのと同じで、“主張” との同音衝突を避けるのに用いられます。「国のトップ」などとも言い換えることができます。
相
を読み替えることもできますが、この場合は中国普通話の「シャン」(xiang1)であれば 利用可能ではあります。
主将
“主将” は日本でスポーツ競技で「キャプテン」を意味する訳語として編み出されたものですが、まず日本がルーツでないような種目であれば 強いて漢字を使う必要はなく、字数に制限がない限りは「キャプテン」の方が有効な可能性が高いです。
将
という字は “将軍”の将
で、軍隊などの武力組織のボスを表します。将
は將
の略字で、ひっくり返って分かりにくいですがテーブルや台を表わす爿
が音符です。戦いの前に肉をそなえる儀式を行ったなど複数の説があります。
簡略化されて目立ちませんが、状
・壮
・装
と音が通じているので多少考慮の必要があります。「ソウ」「ショウ」「ジョウ」など複数読みがあります。
将
あるいは將
の中国簡体字の将󠄀
には〈従える〉という意味があり、これは接続詞として用いられていることがあるため必ずしもボスのことをあらわしてはいません。使う位置によっては紛らわしい可能性があります。読み方としては「シャン」「チャン」「ジャン」あたりが近くなります。(jiang / qiang)
もう一方の主
の方は、通常は漢音「シュ」が用いられますが、“坊主”(ボウズ) “法主”(ホッス) など「ス」の呉音読みもあります。
主
が含まれる注
・柱
・住
・駐
はどれも「チュウ」または「ジュウ」と、延ばして発音されるようになっていて、あえて音を合わせに行く必要もないでしょう。