“断行”・“ 断交”・“団交” は それぞれ「ダンコウする」となる動作性名詞です。“断口” は 普通名詞です。
断
の字は たちきる という意味の動詞である場合と、断たれた状態 という 受け身の形容詞の場合とがあります。“断口” は このタイプで〈口を断つ〉ではなく〈切り開いてできた口〉という意味です。“断面” “断層” なども同じです。
こういうとき 英語などであれば opened とか -ed を付けて意識的に過去分詞にすれば 受動態か能動態かが混ざらないように語形調整できますが、漢字熟語では難しい対応になります。
しかし日本語で こういう語は “断ち口” あるいは “断たれ口” として送りがなを使うと 文字同士の関係を 明らかにできます。送りがなを省略するとしても、音読みせず訓読みが有効な例と考えられます。
“団交” は 団体交渉の略なので、略さず言うのが一番ですが、良く使う人には 漢字変換で他の語を使いづらくさせます。使わない人には単に邪魔になります。
団
は “布団”(フトン) の「トン」の読みがあるので「トンコウ」と読むこともできます。寸
が中に入いっていますが、この字は團
が元の和製略漢字で、寸
の「スン」の読みや意味とは関係ありません。読みの覚えやすさから言えば囗
に単
か田
でも入れて㘡
みたいな形のほうが良いですが、残念ながらそうはなっていません。
団
の読みに手を付ける場合、もとの “団体” について考えるべきですが、それ自体に同音衝突は あまりありません。同じ字では “分団”vs“分断”(ブンダン)、“団長”vs“断腸”(ダンチョウ)、“集団”vs“終段”(シュウダン)、“公団”vs“後段”vs“講壇”vs“講談”(コウダン) などで衝突があります。どれも「トン」にすることで ぶつかりにくくなります。これらの語では「グループ」と言い換えたほうが早いこともあります。
“断行”・“断交” は 断
が重なっていますので行
と交
で音を変える必要があります。動詞の文型の場合は「断じて行う」、「交わりを断つ」なども言えますが、名詞で扱いたい場合に「交わりを断つこと」では長すぎます。
交
と行
の字が直接対立するケースは “親交”vs“進行” などがありますが、多くはありません。代わりに 交
を形声字の声符として部に持つ校
から “校庭”vs“行程” や、効
から “発行”vs“発効” などが あります。
行
の字には漢音読みの「コウ」のほか、「ギョウ」の呉音読みと、“行灯”(アンドン) “行脚”(アンギャ) で使う「アン」の唐音があります。「アン」を使う単語はレアですが、「ギョウ」は多く用いられるので “断行” は「ダンギョウ」とするとひとまず回避可能です。
ただ行
を「ギョウ」と読むのは、ほかで衝突が増える場合があります。 “紀行”・“奇行” (キコウ) を「キギョウ」とすると “企業”・“起業”、“試行”(シコウ) は「シギョウ」だと “始業”・“士業” などが当たります。なので「ギョウ」から多少ずらして「アン」のン
をとって「ギョン」「ギャン」や、旧仮名遣いに近い「ギャウ」「ギャオ」あたりにすると より効果的と言えるでしょう。
交
の字は「コウ」以外に、「キョウ」の読みがあり声旁になったときに現れてきます。例は少ないですが “餃子”(ギョウザ) とか “検校”(ケンギョウ) などに見られます。しかし「キョウ」だと京
や教
、「ギョウ」では行
や業
などライバルが多いですから、あまり安全地帯ではありません。
この字は「行き交う」のように訓読みとしては「かう」の読み方があり、これをそのまま音読みの代わりにすると自然です。訓読みを音読みに適用するのはナンセンスなようですが、必ずしも否定されるものではありません。
例えば “寿司”(スシ) の 寿
などは「ジュ」が音読みですが、スシの名称は日本語の “酸し”(すし: 現代の「すっぱい」) から来たものとされる訓読みの当て字なわけで、「ス」という音読みがあるわけではないです。が、そう読む 𛁋 の変体仮名もあって、相当大昔から「ス」と読んできたことは言えます。
「コウ」に近いところでいじるなら他に「コン」「カオ」なども考えられます。コンは根
や婚
などが同じ音の漢字があるうえに、“断交” を「ダンコン」では何か卑猥な単語とも取られかねないので適切ではありません。
「カオ」は可能性はありますが、とくに語尾では扱いづらく、交
を含む多量の形声字への影響程度からすると あまり ふさわしくないかもしれません。たとえば “学校” を「ガッカオ」と読むのは「ガッカウ」と比べると口の動きが大きくやや不自由です。会話だと「ガッカオ」は “学科を” とも紛らわしくなります。