“工法” と “航法” の語末には法
があり、“広報” と “公報” には報
があります。“広報” は「コウホウする」となることのある動作性名詞で、一般に用いられにくい “公報” とは異なります。
この中では 共通する字のない “後方” も普通名詞ですが 位置と方向を示していて、へ
に
から
など同じく方向性を示す助詞と強い結びつきがあります。
“広報” という単語は多義的です。純粋に 広報する行為そのものの場合もあれば、会社など組織の 広報部・広報課 という部署の略称のこともあります。また広報された 何らかの情報源、たとえば広報誌を指していることもあります。
「コウホウにある」「コウホウにいく」「コウホウをとる」「コウホウを見る」「コウホウに出す」「コウホウに回す」「コウホウを読む」「コウホウにノる」、これらの表現は “広報” と “後方” どちらか区別するのは “広報” の多義性のために重なりやすくなります。
この漢字熟語を嫌って “メディア対策部” “PR部” のようなカタカナ語や 英語略称を用いて 言い換えられることも良くある方法のひとつです。
そうは言っても “後方” や 他の字を出したい場合には邪魔になります。言い換えが考えやすいという特徴からすれば、広
報
それぞれ別の読みにしても 少なくともこの同音語群内では影響が出にくいと言えます。
あまり使いませんが報
という字は “お報せ” と書いて「おしらせ」と読む訓読みがあります。普通は “お知らせ” が用いられるので不要な読みですが、情報の受け側と送る側で知
と報
が逆の向きを持っています。
𠬝
のつくりを伴う幸
の へんがありますが、この部分は手枷(てかせ) を表す㚔
からくるもので、𠬝
が合わさることで 罪人の手や体を縛って捕らえた姿を表す会意文字です。“報いる”(むくいる)とか “報復”(ほうふく) のような言葉も有りますが、元来は強権をもって人民を服従させるような意味を持っていて、あまり縁起の良い字ではありません。幸
(さいわい)は別の意味に転じたもので、天子からの賜り物を意味する夭
丷
干
からなる別字を持ちます。
その面では見た目から意味が分かりにくい文字で、何らかの調整がされても良さそうであり、場合によっては使用を控えることも考えられます。ちなみに この字は中国簡体字では报
と書かれ、まるで幸福そうには見えません。
日本語の音読みでは基本「ホウ」の読みしかなく、仮に変えるなら中国語音を頼って「バオ」(bao4)としたり、「パオ」「ハオ」などが考えられます。
広
は元は廣
で、簡略化されたものです。この字は本来「クヮウ」の合拗音です。
また “広東省”(カントン)などで知られるように「カン」の読みが昔からありますが、中国普通話拼音ではguang3 で、カタカナで書き分けるなら「クヮン」です。広東語だと「クォン」の方が近いかもしれません。広
の字をそのまま「カン」にすると、缶
感
間
漢
完
官
など同じ読みは多く、区別としては使いづらいと考えられます。文字の上では他の方法として「クァオ」「カウォ」のような表記も可能かもしれません。
広
の字の方を中国の例にならい「カン」「クァン」「クォン」など 撥音ン
を用いた場合、次に来る報
の字は通常日本語の流れではパ行の半濁音化するのが通例です。“官報” が「カンポウ」であることを踏まえると、もし「カン」とした場合は「カンホウ」としてその例から外す必要があるかもしれません。
後
という字は 語頭では “後退”(コウタイ) “後期”(コウキ) “後編”(コウヘン) “後悔”(コウカイ) など「コウ」の読みがよく使われます。“後日”(ゴジツ) “後光”(ゴコウ) “後妻”(ゴサイ) など例外もありますが多くはありません。反対に語末では “前後”(ゼンゴ) “午後”(ゴゴ) “背後”(ハイゴ) “最後”(サイゴ) “食後”(ショクゴ) など「ゴ」が使われます。
「ゴ」と読む他の字には五
誤
御
語
碁
などがありますが、このうち誤
御
五
の3つについてはどのような言葉にも接続する性質があるので後
も「ゴ」と読むと問題を起こしやすいと考えられます。“後編” を「ゴヘン」とすると“五偏” になったり、“後期” を「ゴキ」とすると“誤記” や “語気” と衝突します。
したがって「ゴ」に寄せるのであれば「ゴウ」「ゴン」「ゴツ」「ゴク」「ゴッ」など 促音 撥音 長音 を加えて間を取る方法が考えられます。「ゴッポウ」「ゴクホウ」「ゴンポウ」なら変換で衝突はありません。
ただ「ゴ」を「ゴッ」「ゴン」「ゴウ」にするのは 三
四
十
などとの関連から どちらかと言うと五
にこそ適した方法と言えるかもしれません。“五円” と “御縁” と “誤嚥” のように、「ゴ」が衝突するケースは多々あります。キーボードでは5
を押せば良いので「ゴ」の読みは重要でないばかりか むしろ邪魔になることもあります。このことを念頭に置くと後
に対してはそれと同じにならないように調整が必要でしょう。
漢音の「コウ」に関しても “ウ” を促音 撥音に 置き変えて「コン」「コッ」にすることも考えられます。「コンポウ」だと “梱包” になるのでいけませんが、「コッポウ」なら “骨法” としか衝突せず影響は軽微です。
“後方” という漢字には「しりえ」(古語で「しりへ」) という訓読みがあります。ただし後
を「しり」と読むのは常用漢字の範囲ではありません。現代では例が少ないですが “国後”(くなしり) など一部の単語にだけ名残があります。方
を「え」と読むのも “往にし方” など極めて例が限られています。前
を「まえ」と読むのと対になる語で それなりの意義は有りますが、難しいので避けたほうが良いでしょう。
訓読みで 対応するのであれば 常用の範囲内の「うしろ」と「かた」を組み合わすのが良いでしょう。より和語らしい表現なら “白”(しろ) が “白雲”(しらくも) のように -ォ が -ァ が母音変化する例に ならい、「うしらかた」のような言い方もできるかもしれません。
法
の字は “法被”(ハッピ) “法度”(ハット) “法華”(ホッケ) “法身”(ホッシン) など、もとは fap のような音であったものが 子音を末尾に取れない制約によって促音に化けたものが一部の古い例に残っています。入声は中国音でも廃れていて今の普通話では「ファー」(fa)のようにしか使われません。
古代の音を引き継いだ日本の呉音と、現代の中華音のどちらが正しいか 甲乙の つけようがありませんが、現在の日本語からの発音が簡単なところでいえば「フォウ」「ファウ」あたりが適正といえるでしょう。
日本語の かなづかいでは「ホウ」と書いて実際には「ホー」と読むという偽母音表記があるので、ファ行をどう記述すべきかは 難解です。「フォウ」と書いたときに fo-u なのか fo-o なのかは カタカナでは判断できませんが、呉音の形からするなら fo-uと読まれるべきということになります。
工
の字には漢音「コウ」の他に 呉音「ク」があり、“大工”(ダイク) “工夫”(クフウ) “工面”(クメン) “細工”(サイク)、人名でも“工藤”(クドウ) など 比較的多くの例が生きています。中国普通話だと「コォン」(gong1) のように読まれるので、漢音「コウ」の方が 音としては近いです。カナで書きやすい「コン」にすると、昆
紺
根
今
婚
などと重なるのでこの移動は良くありません。よって「ク」でそのまま使うか、ン
の代わりに促音でッ
を補うことが考えられます。