“奇声” “棋聖” “規制” “帰省” “寄生” “規正” “既成” “既製” は 接続の形は異なるもののすべて名詞です。いずれも「キ」+「セイ」の漢字2字によって構成される熟語です。
単純名詞として使用される “棋聖” は、囲碁将棋の世界での優れた人物を指す言葉で、「キセイ」と読む中では 最も 使用される分野が限定的です。 “奇声” は その次に多い普通名詞で、奇異・奇妙な声という意味合いですが、日常的に使用されることはまれで、“奇声を上げる“、“奇声が聞こえる”、“奇声を発する” など特定の語句とよく繋がる傾向があります。
“既成” は 既に できあがった物事を言いますが、“既成事実”、“既成概念” など 特定の四字熟語となって現れやすい単語です。 “既製” も同様に “既製品”(キセイヒン) “既製服”(キセイフク) という特定の複合語で現れる傾向があります。「キセイの...」の形で助詞の
が間に入る場合もありますが、単独で使用される例は少なめです。
“規制” と “規正” は 字ヅラが 似ていますが、“規正” は「規則に沿って正だす」という意味で、“修正” “矯正” “訂正” などにやや近いですが、紛らわしいせいか 登場頻度は高くありません。対して “規制” は「規則をもって制する」という意味で、特に国家や組織が人々の行動を制限するという文脈で用いられ、その影響範囲は地域や分野に関係なく非常に広いものです。“法規制” “速度規制” “規制薬物” “規制緩和” など漢字複合語を よく作ります。
“帰省” は 故郷に帰るという 習俗行動を言いますが、この意味では “帰郷” とか “里帰り” という単語もあります。省
とは 日本の場合 財務省とか国の行政機関でしか使われず、一般的な場所を指しません。よって “反省” などに通じる「かえりみる」の意味合いに寄ることになりますが、少々謎めいた組み合わせです。お盆や正月などに “帰省ラッシュ” という組み合わせでニュースなどで用いられることもあってか 過剰流通しているきらいがあります。
“寄生” は多くは寄生虫や 何らかの別の生物に依存して生きる生物を指しますが、転じて自立せず他人に生計を依存するような人物を指して侮辱的に用いられる語でもあります。この意味では “寄生虫” という語が比喩として使われることもありますが “帰省中” や “規制中” との同音衝突があって重ねて厄介な単語です。
おおむねこれらのうち 衝突が問題となるのは “規制” “帰省” “寄生” のあたりで、他は比較的 分野の偏りで衝突は少ないでしょう。
文字を整理すると、“既製” と “既成” が 既
を共通としますが 他に同じ字はありません。しかし “規制”の制
と “既製”の製
は同じ部を持つ形声字と声符の関係にあります。“寄生”の寄
と “奇声”の奇
も同じです。こういう関係の字でも発音が同じでないものもありますが、覚えやすさを考慮すると できるだけ そろっているべきです。
「キ」と読む奇
寄
既
帰
規
棋
のうち、棋
は“棋盤” など「ゴ」とも読めます。奇
は “奇しくも”の 訓読の「く」があります。また “奇怪”と書いて「キッカイ」と読むように促音化することがあります。他はどれも「キ」としか読めません。
「セイ」としか読むことができないのは制
と製
で、省
生
正
は「ショウ」、成
生
には「ジョウ」の読みが あります。 また日本語ではないものの省
は 「ション」として、正
は 金正日(キム ジョンイル) の「ジョン」として、それぞれ比較的 日本国内でも異なる読みが流通しています。
したがって現状からすれば制
と製
はそのまま「セイ」を もちい、他の字はそれ以外をもちいるのが 近い解決と考えられます。ただ、広く使われる “規制” がこれに該当するため、“寄生” や “帰省” と区別するのには、別音があったほうが好都合ではあります。
制
の字は中国普通話では「チー」(zhi4)であり、そこからすれば「チェイ」など中間的な音を採用すればズレが縮まり発音も難しくはありません。“制する”(セイする) という 単漢字の語も定着しているので変更は難しいと考えられますが、候補としては考えうるというところでしょう。
生
の字は レアですが “埴生”(はにう)、人名に “羽生”(はにゅう)、“桐生”(きりゅう) などが あるように 訓読で末尾に「う」のみが生じる語句があります。このルールからすると “寄生” は「よりう」「よりゅう」と読むことができるといえます。また “羽生” は「はぶ」とも読まれ、「ぶ」とする事もできます。“産毛”(うぶげ)、“産女”(うぶめ) などの語があるように “生む” が「Ubm+u」であったとすると この「ぶ」は考えうる読みになります。他に (草・毛などが) “生える”(はえる) という読みもあります。
「寄生する」という単語が非常にネガティブであることからすれば、同音語が多く間違いやすい「キセイする」より、代わりに「寄生める」とか「寄生ゆる」のような少し古めかしい日本語を用意することも検討の余地があるかもしれません。
成
は「セイ」が一般的で “成人”(セイジン) “成功”(セイコウ) “大成”(タイセイ) “合成”(ゴウセイ) などありますが、それぞれ “星人”・“性交”・“体制”・“豪勢” と同音衝突しており、これもあまり便利ではありません。
成
には これを含む城
や盛
など形声字があり、どちらも「ジョウ」の読みがあります。同音語の多さから言えば、「ジョウ」は有力ではありますが、上
条
場
状
情
など ライバルも多く、ベストとも言えません。“既成”が「キジョウ」では“机上”・“騎乗” などと衝突し、この文字だけでは解決できません。
既
(旧字体:旣
/異体字:既󠄀
)の字はそれ自体は「キ」と読みますが、これを部に持つ概
や慨
(慨󠄁
)や漑
などは、どれも「ガイ」あるいは「カイ」と読みます。中国普通話だと既
はチー(ji4)、概
などが「カイ」(gai4)なので あちらでも違う音になっています。
日本語の「キ」は短かすぎて同音を生じやすいので、「ガイ」に近く同音衝突しにくいあたりで「キク」「キツ」「クイ」「グイ」「ギツ」などが考えられます。前のものは菊
喫
杭
などとわずかに重なりますが、「グイ」「ギツ」は今のところ開いている音です。「ギツ」は “牛車”(ギッシャ) など怪しいですが、これは 入声の“ギㇷ” から来ていると考えられ、「ギツ」ではありません。
帰
(旧字体:歸
) は「キ」としか読めませんが、追い払うことを暗示する帚
(ほうき)と𠂤
(師団など目的集団) 会意字であると考えられており、この字に関して読みを変更しても他の語への音の影響が出にくいと考えられます。中国簡体字では归
であるので直接結びつけづらいですが、普通話での読みは「クイ」(gui1)となっています。
帰
を使う熟語は多くあり、同音衝突するものもあり、“再帰”vs“再起”(サイキ)、“帰還”vs“期間”vs“機関”(キカン)、“回帰”vs“会期”vs“怪奇”(カイキ)、 “帰化”vs“気化”(キカ)、“帰趨”vs“奇数”(キスウ) など挙げられます。その点からすると「クイ」などの外来音を もってくるのは 効果的と言えます。