「けいき」または「ケーキ」と 発音される単語です。いずれも単純名詞です。
カタカナの “ケーキ” を除く“景気” “刑期” “契機” “計器” は、どれも「ケイ」と「キ」の2音からなる単語ですが、この「キ」の ほうは ちょうど “気管”vs“期間”vs“機関”vs“器官” でも衝突する 因縁のある字たちです。
気
の字は 「キ」のほか、“湿気”(シッケ) は “気配”(ケハイ) の「ケ」の読みがあり、ここでの組み合わせでは これを用いて “景気” を「ケイケ」とするのが 簡単です。
後ろの「イケ」の部分が やや 「行け」や「池」と混乱を生じそうにみえますが、“景気” は “好景気” “不景気”、“景気減速” など 比較的特定の単語との結び付きが強く、ほぼ問題にはならないでしょう。
「景気」という単語は非常に ぼかした言い回しで、お金の出入りの量と速さを指し、“経済収支” のように 音の衝突のない別の言い方も使えます。
期
は其
を 音符として持つ会意形声字で、この其
は「ゴ」「キ」「ギ」の音があります。期
の場合は “最期”(サイゴ) や “一期一会”(イチゴイチエ) がよく知られるところでしょう。「ギ」は “将棋”(ショウギ) などに現われます。
“刑期” のために「ゴ」が適するかというと、“敬語” “警護”(ケイゴ) と重なるので うまくいきません。
すると 刑
をどうにかする必要がありますが、これも「ケイ」としか通常読まれません。形
という字と同じ偏を持ち、ともに呉音で「ギョウ」という読みがありますが、これは “刑部岬” など地名に現われる程度で 非常にまれです。
ただ「ギョウ」という読みも、行
業
僥
凝
などと衝突するため あまり安定はしていません。とくに業
は使われ方が多岐にわたるので変更が容易でない文字です。
刑
の中国普通話の読みを頼ると、「シュイン(xing2)」のようになり、日本語とは かなり離れます。この音との中間音を持ってくるとして、末音が「ン」になるあたりは有効で、たとえば「キョンキ」「ギョンキ」「ションキ」などだと完全に衝突のない表記にすることは可能です。
刑
については 普通は “仕置き” と書くため あまり使いませんが「しおき」の訓読みもあります。“刑期” を意味してこの単語を使うのは難しいですが、補足としては「しおきのとき」「しおきの期間」などと言うことはできます。
器
は「うつわ」の訓読と、“三種の神器”(ジンギ) のように まれに「ギ」の読みが 用いられます。
“計器” の場合、計
との組み合わせで、こちらが十
(ジュウ/ジッ/ジフ:旧仮名遣い) を持つ会意字であることから、どちらかというと その音に近づけたほうが覚えやすいのではないかという見方もあります。たとえば中国普通和の音「ジー」(ji4) を借りて、「ジーキ」とするなどです。しかし 計
が「ジー」だと “計算”(ケイサン) が 「じいさん」 となるので これも使いづらい音になります。
この場合は 中間音から考えて、「ケイ」×「ジー」なら「ジェイ」、「ケイ」×「ジッ」なら「ジェッ」が候補に出てきます。「ジェイキ」「ジェッキ」は いづれも 衝突するものがなく比較的安定します。
“契機” については 契
(契󠄁
)が 刀で印をつけることを表わす㓞
に、大
は人体を表わし、札や入れ墨など何らかの印をもって 人を束縛する意味を持つ字です。この 契
は ほかに“契約”(ケイヤク) など熟語を持つものの、その他には ほとんど用いられません。
音読みではふつう「ケイ」しかあまり知られないものの、これを部に持つ “喫茶”(キッサ) や “喫煙”(キツエン) のように呉音で「キツ」または「キチ」の音を持ちます (末音は子音 t のため不定)。喫
は実は 常用漢字外である吃
の字の 音だけを借りた置き換え字で、飲むとか吸うという意味を持ち、契
と意味的には無関係です。
喫
より吃
のほうが 構造が簡単でもあるので、喫
など廃止してしまっても良さそうですが、これはまた別の議論です。
よって別に喫
に音を 合わせに行く必要性はないのですが、当面の覚えやすさと、「ケイ」より「キツ」のほうが 橘
詰
吃
など遥かに少ないことなど踏まえると このほうが適している可能性が高いと見られます。
“ケーキ” は、古い時代(明治〜大正以前) に日本語に定着した英単語 “cake” に 対応するカタカナ語で、発音としては kéɪk となるものの 特に後末が子音で終わる音は 旧来のカナで表記できず、「ケーキ」と「ケイク」の2通りの記述がされます。後者は比較的少ないです。
戦後の英語では make(メイク)、fake(フェイク)、shake(シェイク) のように 末音 k は「ク」と書かれるものが主流であるので、おそらくは「ケイク」にしたほうが整合的です。
しかしながら「ケイク」は変換すると “警句” となるので 入力の効率はかえって悪化します。この対応策としては「メーク」「フェーク」「シェーク」「ケーク」というふうに すべて 長音記号で書くのが簡単です。が、長音記号は漢数字の一
と見間違いが起きて、場所によっては読みづらいという弱点があり、万全ではありません。
対処しようよすると “ケイㇰ” のように 小書きカナを使うことも 考えられますが、現行の仮名遣いでは入力しづらく、やや奇異な印象を与えるかもしれません。現実的には英語表記を用い、状況に応じ “cake” とルビを振る対応が必要かもしれません。
この英字表記の揺れに関しては 何かと問題が多いことから、カタカナ語全体の再整理が求められるでしょう。