“食材” とは 食べられる材料を表わす 普通名詞です。“贖罪” は 罪を 贖うことを言う 動作性名詞です。
“色材” は 色をもたらす材質を呼ぶ普通名詞です。この単語は「ショクザイ」で漢字変換して出てくることが ありますが、紛らわしいせいか「シキザイ」の読み方のほうに 退ぞいていますので、実質的には同音から抜けているとも見えます。
贖
贖
は常用漢字外であるので 公共的な媒体では フリガナが必要です。まれに やや堅めの 文章に登場する文字です。右側は𧶠
が用いられています。
贖
の字と似た字に、續
や讀
が あります。これらは 常用字の続
「ゾク」や読
「ドク」の旧字体で、基本的に新字体が使われます。
ほかに瀆
という字があります。この字は “冒涜”の 涜
の旧字体です。
売
あるいは賣
という形は 金銭や財物を動かすことを示します。これは貝
「バイ」や売
「バイ」「マイ」という読みを持ちます。買
も同じですが これに士
を加えると賣
になります。ここでの士
は出
の原字で、人が手足を前に出すのを 上から見た さまを表わし、商品が出ていく様子に通ずるとされます。
売
や買
から攻めていくと、贖
が なぜ「ショク」となるのかは謎です。中国普通話だと「シュウ」(shu2)となり、こことも音が一致しません。ただ読
は「ドク」の他に読点などの「トウ」という読みもあります。このタイプは末音の「ク」が入声の dok で、k音が 中国北部で衰退したものと見れば だいたい説明はつきます。しかし「ク」を除いたにしても「バイ」「マイ」には遠すぎます。
これらの字は大きくすると こうなります。
賣 續󠄁 讀󠄀 續 讀 贖 𧶠
環境依存文字なので 同じ見た目に ならないかもしれませんが、 中央が 網 を意味する罒
のものと、四
のものがあります。 (lang=zh-Hant を指定したり中文繁体字にすると すべて罒
に なったりします)。四
は ヒトの鼻の穴を 表わす文字ですので 意味としては誤りですが、ここでの四
は、囧
の略型や古字だと解読されます。つまり 士
+買
でなくて、士
+囧
+貝
だということです。
涜
続
読
などが売
を含むけれども 音が 大きく異なるのは、ルーツの異なる複数の字が 合流してしまったせいで、もとは 別の字だとすれば話が変わります。この場合 新字体が間違って作られたのだということであって、再考を要します。どこかの新聞が 古い字体を使い続けるのも あながち否定できません。
別物だという考えに基づけば、売
の「バイ」「マイ」を そのまま参考にするのは 正しくなかろうということになります。賣
と𧶠
はどちらも売るという意味を含意しますが、違うのは続
の字のように《物事の連続》という観点があるかどうかということです。読
の場合は 言葉が続くことを示します。贖
ならこれは いつまでも罪が拭えない状態と考えることができます。涜
は「けがす」と読みますが、消えぬケガレが 染み付くことと考えられます。
囧
は冏
の異体字で、商
と似ているので、これに偏を加えた滳
や謪
を使い「ショウ」の周辺の音でまとめてしまえば良さそうな感じはあります。字形をどうすべきかは同音衝突と別の議論ですので ここではこれ以上深くは追いません。ちなみに簡体字だと賣
は卖
なので見る影もありません。
読
が「ドク」、続
が「ゾク」で、いづれも濁音である点からすると、贖
も濁音「ジョク」にずらすことは考えられます。「ドク」は独
毒
髑
、「ゾク」は属
俗
族
賊
、「ジョク」は辱
濁
(常用外) くらいなので、「ショク」が色
織
飾
植
殖
嘱
触
などあることからすれば 濁音化は有効な回避策です。
反対に 売
とまとめてしまってもよいだろうとするなら、中間音を探って「ミク」「メク」「ミョク」「ビョク」あたりが候補となりえます。末音「ク」は和語の “焼く” とか “巻く” のような動詞と紛らわしく、「ク」の前の音は拗音であるほうが 区別しやすくなります。「ミョク」「ビョク」は同音衝突可能性 かなり低い選択肢となります。
食
食
は 人間の口と食品を乗せた台を合わせた 会意文字で、その音は他の文字と共有されていません。たまに「人に良い」などと言われることがありますが、そうではないようです。
食
の字には食󠄁
という もう1つの字体があり 艮
の上部が水平の一
となっています。字源としてはこちらが正しいとされ、中国繁体字のフォントでは こちらが正になります。(日本語環境では異体字セレクタU+E0101を必要とします)
「ショク」の読みは色
織
飾
植
殖
など幅広い字と 衝突し、例としては “洋食”vs“養殖”、“食事”vs“植字”、“草食”vs“装飾”、“食器”vs“織機”、“一色”vs“一食”vs“一触” などがあります。食
は “一食” のように助数詞としても 使用できるので、数字の後ろでは常に色
と衝突します。「3ショクの そうめん」などと言うと 色か 食数か 区別できません。
食
の字には「ジキ」という読みもあり、“餌食” “乞食” “断食” などの例があります。「イ」とか「シ」という読みもありますが、基本的に 中国系の人名にのみ現れる、一般名詞で日本語には登場しません。
「ショク」の「ク」あるいは「シキ」の「キ」は、古代中国語の入声 つまり 子音k で終わる文字であり、もともとは母音が無かったと見られる文字です。この状態は 英語の inkを「インク」と「インキ」の2つの読みがあるようなものです。つまり少なくとも 後ろの「キ」か「ク」かは、実はどっちでも良いという話になります。
散発的な衝突の発生と、会意字であるという点からすると、比較的 音を変更しやすい文字であると言えます。ただし飾
と蝕
の2字が 形声字として食
を含むため、変更するならセットで変えたほうが良いでしょう。蝕
の字はこれも常用漢字ではないので 大抵のケースでは食
の字で代用されているため、実質飾
だけが 影響を受けることになります。
そのまま使えるという観点で「ジキ」という読みは有効です。この「ジキ」単独では “時期” “磁気” “自棄” と重なりますが、熟語になるとほぼ影響がありません。食堂=「ジキドウ」、食事=「ジキジ」 など、認識上の問題はほぼ無いと言えます。
ただ「ジキ」の読みは「ショク」に比べると 濁音化することによる忌避感を含む可能性があり、それは “乞食” や “餌食” のような語の語感に現われます。食に関する 表現としては 一定の清潔感が求められる場面も多いので、その意味では ややドライブして「チキ」や「ショキ」「シャキ」「シェク」あたりの清音の方が好ましいかもしれません。
罪と材
罪
と材
は ともに「ザイ」の濁音を持ち、この音を持つ字は 他に 在
財
剤
済
が ありますが 比較的少数です。
材
は才
の字を含む 会意形声字です。右の旁りの部分がオ
のように五叉路のようなタイプと、右に突き出るものがありますが、日本語では方
から生じたオ
が 似ていて紛らわしいので 突き出る形が好まれますが、特に意味の差はありません。
才
は「サイ」と濁らず読むのに対し、材
は ほとんどの場合 濁音で読みます。同じグループに財
があります。やや離れたところで代
の旁りも 同系とされますが、字形が異なるので合わせに行くほどでもないでしょう。
才
材
財
は 中国普通話では およそ「ツァイ」(cai2) で音が共通しています。「ザイ」の方は少ないですが、「サイ」は再
最
際
歳
菜
祭
賽
債
裁
西
など かなり数が多いため、3つ合わせて「ツァイ」に まとめるのは ひとつの対策になります。“天才”vs“転載”vs“天災”(テンサイ)、“才子”vs“祭祀”vs“妻子”(サイシ) などの衝突が 回避可能になります。
材
が同時に「ツァイ」に移動すると 罪
は 敵が減って在
剤
済
だけとなります。“現在”vs“原罪”(ゲンザイ)、“罪人”vs“在任”(ザイニン) などが残りますが、罪
の方の熟語の登場頻度が かなり低いのでさほど影響はないと言えます。 “罪人” に いたっては「つみびと」と訓読みにすることもできます。
罪
は 中国普通話を頼るとおよそ「ツイ」(zui4) となりますが、「ツイ」では対
追
墜
椎
終
など多くなるので変えないほうが良いです。強いてやるなら「ジャイ」あたりなら日本人でも発音しやすいでしょう。