“為替” は通貨・手形など、価値のある証書またはそれを交換する手続きを指す普通名詞です。
他に「かわせ」の形になる単語としては
- 買わせ
- 飼わせ
- 躱せ
- 交わせ
などが あげられます。
“買わせ”、“飼わせ” はいずれも動詞「かう」に、使役の「〜ァせ(る)」が接続した連用形です。これは「かう事をさせる」の意味であり、「あなたに犬を飼わせはしません」とか許可の有無を示したり、「部下に材料を買わせ、...」 のような文中に現れます。
“躱せ” は 動詞の “躱す”(かわす) に対する仮定・命令形です。格闘技等で対戦相手の攻撃をよけるように「躱せ!」と言われたりします。
“交わせ” も同様に動詞 “交わす” の活用の1つです。こちらは “行き交う”(ゆきかう) のように一部の動詞の末尾に続いて助動詞のように振る舞うことがありますが、“交わす” の形では特に何か約束を取り交わすことを言います。
実のところ ここであげられる「かわせ」とは 本質的に すべて同じ意味で、物体か もしくは言葉など目には見えない何かをお互いにやり取りすることを示します。なかでも “交わす” は抽象的で単独使用されにくいですが、ちょうどこれらの語の中間的な位置にいます。
本質的に意味が近いため、会話の場合は あいまいでも あまり問題は ありませんが、文字で入力しようとすると登場位置によっては誤変換を起こします。「犬を躱せはしない」と「犬を飼わせはしない」では状況が大きく違いますし、「為替はしない」は もっと違います。
“為替” は 外国為替取引(FX) のことを指す略でもあり、インターネットで手軽に取引可能な時代となった現代では「為替はしない」は誰にでも登場しうるカジュアルな日本語の組み合わせです。
“為替” とは “替を為す” という漢文式の日本語表記で、結局は事物を取り交わすことです。「かわせ」でなく「かわし」と読む例もあります。漢語のように見えますが、中国語にすると “汇兑”とか “外汇” (汇
は彙
の簡体字で物事の集合、兑
は人の所持品を取る意)と訳されますから、気にかける必要はありません。
特徴的な形の為
は、この字形だと正体不明ですが、旧字体は爲
で、ゾウを爪で掴んで従える様子だとされます。鳥
と似てますが鳥
ではなく象
です。インドやアフリカならともかく、現代の日本人が理解するのはなかなか難易度が高い説明です。
これを部に持つ他の字としては偽
などがありますが、ほかは常用漢字外のため旧字体のまま放置されたものが多く、同じ字とは気づきづらいです。さらに中国簡体字だと为
で、こちらも大きく異なります。
つまり為
は漢字として存在が不安定で、これを使った “為替” に熟字訓「かわせ」を当てるのは さらに合理性に欠けます。熟字訓は日本語の伝統文化である一方で、覚えにくく、テストで減点するための教育的イジメという見方もできるものです。また “外国為替” を略したとき “外為” と書かれ、これは「がいため」と読まれます。業務の本質であるところの替
が欠落していますが、この語をよく使うであろう業界でさえ うまく処理できていません。
これに普通に対応するなら音読みで「イタイ」とするのが妥当でしょう。しかしそうすると “遺体” や “痛い” との紛らわしくなります。口語ならアクセントを語頭に置くなどできますが、地方が異なる相手ではうまく機能しないかもしれません。古くはこの字はワ行のヰ
なので、現代的には「ウィタイ」と読むことも考えられます。または素直に訓読みで「ためかえ」とするのも1つの対処です。
もし読みやすさと過去との整合性のバランスをとるなら、“為替” は ”替為” のように逆に書くのが妥当でしょう。これならまだ「かわせ」と読んでも比較的自然です。ただ為
は「せ」とは読まないので、まだ難読です。さらに突っ込んで対処するなら例えば “替施” “替背” “替銭” “替競”、または “替仕” “替資” として「かわし」の読みを用いることもできるかもしれません。
躱
は 常用表外漢字で、公的には使用すべきでないとされる字です。身
が含まれる会意形声字で、枝の歪んだ木のように身体をひるがえすような様を表します。この「かわす」瞬間、その人の体と物が「交わされる」ことも この語の根底にあります。
「かわす」という単語だけだと「買わせる」の短縮された「買わす」(方言とも)と 重なりますが、この単語は特に “身を躱す” “攻撃を躱す” など特定の単語と強い結びつき(コロケーション)があります。このタイプの単語は “描く” を「かく」と「えがく」と読むように、“躱す” の一字で「みがわす」を「かわす」に代えて読みを与えると意図が明確にできます。
“飼わせ”、“買わせ” のケースですが、これは「〜せる」ではなく「〜させる」を使うのが簡単で、「かわさせる」が使えます。これで少なくとも “為替” と誤変換することはありません。
ただし「躱させる」とは衝突が残り、完全ではありません。業務命令等で強制的に何かを買って来させるようなケースなら、“至らしむ” や “知らしめる” “感動せしむ” などで使われる使役の「しむ」「しめる」を用い「買わしむ」「買わしめる」という言い方も考えられます (「買わせ」に対応する活用では「買わしめ」となります)。
あるいは「買いに遣り」とか「買いに寄越し」「買いに来させる」という言い回しも可能です。「かう」からは単語が遠くて浮かびづらいですが、「購入させ」など別の語に言い換えるほうが早い場合もあるでしょう。
“飼う” の方は “買う” に対して利用者や場面が限定されます。これは “飼育する” “育てる” あるいは 「ペットを飼う」でなく「ペットと暮らす」「ペットと住む」のように、家族の一員として扱うような表現のほうが適していることもあるでしょう。