“進行” “信仰” “振興” “侵攻” “進攻” “親交” “深交” “新興” は、最後の1つを除いて どれも動作性名詞「シンコウする」と動詞表現として用いることができます。
“新興” だけは “新興企業” とか “新興勢力” など別の名詞を修飾する語となります。“親交” の動作性は他より弱いですが、「親しい交わり」「親しく交わる」の意味を取ることができます。“深交” も同様です。
他に単純名詞としては さらに “新港” “新香” など 新
+コウ と、 “神光” “神鋼” など 神
+コウ というような造語の名詞も この「シンコウ」には複数あります。
“侵攻” と “進攻” は 攻
が重なっており、“進行” と “進攻” は 進
が共通します。“親交” “深交” は 交
が共通しています。
“親交” と “新興” は字は違いますが、親
と新
の へんが亲
で共通していていづれも「シン」の音を引き継いだ会意形声字です。親
は「木の上で立って見る者だ」とか言う覚え方がありますが、亲
は辛
からきており 鋭い刃物で木板や柱を彫った位牌などのことで、木の上で立っているわけではありません。新
はこれを斤
(斧)で切り 中から汚れていない新しい面が出てくることを示します。
進
は日本語で「シン」の読みしか無く、中国普通話でもjin4 なので「シン」か「ツィン」あたりでほぼ同じです。この字には点が2つの進󠄁
の字形もあって、元をたどると閵
(にじる)+ 辵
(チャク)ということらしいですが、字形から関連が想像しづらいです。辵
は辶
のもとになった字で、彳
+龰
からなります。これらすべて合わせて 足を進め行く感 を表現している会意形声字です。
閵
は「リン」で 大きく違いますが、他に構成部の隹
が用いられる字は推
(スイ) 椎
(シイ) 准
・準
(ジュン) などいくつかの読みに分かれています。
進
の「シン」の読みはこの字単独で考えると変えにくいものの、同系の他の字とのズレなどから見れば、わずかに動かす余地はあります。数があまり多くないところで 母音のイをずらして「シュン」、あるいは「シェン」なら衝突が起こりません。
進
の字がつく “進行” と “進攻” があるので、進
の読みを変えても問題は残ります。これらを分ける場合、現代的に見て読みが「コウ」しかない攻
よりかは「ギョウ」「コウ」「アン」の3つ読みのある行
のほうがどれかに振り分けられそうです。しかし「シンギョウ」では “心経”、「シンアン」だと “新案” など、どちらを使っても 完全に衝突は避けられません。
行
を「ギョウ」と読むと業
の字とよく衝突するので使い勝手が悪く(興行vs工業・始業vs施行 など)、「アン」は “行灯”(アンドン) “行脚”(アンギャ) など少数の古い用例しかなく認知が弱いため安
や暗
などを押しのけてまで定着させるような合理性がありません。その意味では完全な空き地である「ギャン」「ギョン」あたりの音にずらすほうが有用と考えられます。
攻
のほうは ふつう日本語では「コウ」の漢音でしか読まれませんが、工
が含まれている形声字であり、“大工”(ダイク) などにもある「ク」の読みが呉音としてあります。単独の「ク」は扱い難さがあるので重ねて「グク」とすると苦
区
九
などとの衝突が避けられます。「シンク」だと “辛苦” “真紅” とも当たるのでそのまま「ク」で無いほうが都合は良いでしょう。
攻
は中国普通話で gong1(クン:無声音)であり、「クン」や「コン」と読むことも考えられます。「クン」だと君
や訓
があるものの「シンクン」という語句はないので一応は使えます。しかし「シンコン」だと “新婚” “身魂” などと ぶつかるので「コン」は使えません。
“進攻” と攻
の字が共通する “侵攻” のほうは、進
の音を「シェン」などに動かせばここでは一旦回避できます。この2字は用途が近く、 “侵入”vs“進入” や “侵出”vs“進出” など複数の対立があります。ほかに “侵食”vs“新色” や “侵入”vs”新入” など新
ともよく衝突します。“侵犯”vs“審判” などもあります。このため侵
にも別の読みを与えるほうが都合が良い可能性があります。
侵
は本字は㑴
とされ、篆書の時代には右側が帰
と同じで帚
(ホウキ)を握ることで、牛あるいは外敵を追い出す様子とされます。侵
や浸
・寝
は 帚
(ソウ・シュウ) からなる一応は会意形声字です。音が随分ずれている上に略字で分かりにくいですから、「ソウ」に合わせに行く必要はないでしょう。しかし浸
や寝
への影響は考慮すべきでしょう。
侵
は広東語でcam1(チャム)、ハングルで침(チム)で、後ろの音がン
でなくㇺ
になります。それもあって「シン」の代わりに表記上「シム」「シㇺ」という書き方も考えられます。この字は熟語で語末に付くことが ほとんど無いという特徴があります。「いつくしむ」のような純粋な和語の「しむ」との衝突が起きません。また濁音の「ジン」にしても “〜人” “〜神” “〜陣” のような語との衝突が起きません。