危機管理と日本語

日本では昔から地震や台風、津波や豪雪、干ばつや落雷、山崩れ、火山の噴火などなど、自然災害が非常に多い国であります。

このことから危機対応に強いという言説があります。

その一方で海に囲まれていうこともあり、他国からの侵略は比較的近代に至るまで経験が少なく、いわゆる平和ボケなどと あざけて言われることがあります。

どちらにしても緊急事態であることは確かですが、そのような認識の違いがあるのはなぜでしょう。

これは、自然を相手としたことと、侵略など明確に敵組織があるケースとでは対応が全く違う点にあります。

敵組織は何らかの利得を求めてくる人間であり、人を騙して攻めてきます。こちらの作戦の裏をかいてくるとも言えます。

つまりその場その場で素早く状況をつかみ、相手の行動に対する臨機応変な対応が要求されます。

いっぽう自然災害では、基本的に物理法則に従った動きで街を破壊しにきます。

したがって自然への対策は計算によってシミュレーションすることが可能であるという点が大きなポイントです。

シミュレーションでどこにどのような被害が起こるか計算できるということは、事前に準備をすることができるということです。

被害の大きくなる場所を重点的に準備を行えば、少ないコストで大きな効果を得る対策も可能です。

つまり現状で自然災害に対して被害がおさえられているのは、永年の研究や対策工事と対応訓練によって積み上げてきたものであるということです。

このことから言えるのは、あくまで対応力があるのは事前に計算済みの事象についてであり、未知の問題に対して素早い決断や行動を起こすことは得意であることを証明するものではないということです。

言語と決断力

日本は上述のように、行政の動きが遅いと言われます。ここでは事前計算済みの問題ではなく、未知の問題との戦いを言います。

少子高齢化にしても遥か昔から言われていたことであるにも関わらず、具体的な効果を得られないばかりか、問題の認識すら理解していない人もいます。

問題への対処に対し、言語がどのような影響を与えるでしょう。

1つ重要な点は、決断には責任が伴うという点です。

すなわち、国の機関などが何か新しい判断を下すためには、その判断が いかに正しいかということを 国民に理解してもらうことが必要であり、またそれと同時に判断の根拠が何であるかを説明できなければならないということです。

これは2つの機能が求められます。

  • 多くの情報を正確かつ迅速に集めること
  • 決断に対して納得のいく説明を広く正確に伝えること

言ってみれば INとOUTの両方向に対して、高い情報密度を要するということです。

たとえばOUTの代表例としてテレビなどニュースで「ホショウ」という言葉を使うとしましょう。

日本語のホショウには、よく使うもので保証補償保障の3つの同音異義語が衝突しています。

このことから口頭で大臣などが「政府がホショウします」みたいなことを言った場合に、単に問題がないと言う宣言をしているだけなのか、金銭による補償がされるのか区別がつきません。

このためこれを誤解されないために「安全を保証します」とか「金銭の補償をします」という「何を」の部分を追加しなければ意味が掴めなくなります。

このような付け足しは当然のことと思うかもしれません。昔から5W1Hなどという言葉がある通り、何を いつ どのように ということを付け加えるのは当然だとされます。

しかしこれは、日本語の漢字をよく見てない人のセリフです。

たとえば「読書」という言葉は「書を読む」という意味です。
ですから「趣味は?」と聞かれて「読書です」と返すだけで「何をどうする」まで回答したことになります。

元へ戻って「補償」という字を見てみます。

これは「償い(つぐない)を補う(おぎなう)」とあります。

この時点で既に金額や対象者などはさておき、「何をどうする」という対象物Whatが含まれていることがわかります。

もちろん「償って、補う」という動詞の連続であるという見方もありますが、「償う」なのですから、何かしら損失の埋め合わせをする意味合いをすでに持っています。

要するに意味が はっきりしないように聞こえるのは、単語が不足しているのでは無く、「ショウ」の音が衝突しているために曖昧に なっているから ということに過ぎないのです。

ではどうすればいいでしょう。
答えは簡単です。「ショウ」でない別の読みを与えれば良いのです。

例えばショウに近い音としては ション や旧仮名遣いにも あるような シャウ、シャフ などが考えられます。

つまり 現在区別不能なホショウに対する漢字を 補償ほしょう保証ほしゃう保障ほしゃふ のように カナの振り直し を施すということです。

シャウあるいはシャンには日本語に該当する単語がなく空き地です。またシャフには写譜という単語がありますがホシャフとなった時点で他の単語と衝突することはなくなります。

ちょっと古い時代の日本人であればこのような細かい発音の別は区別不能かもしれませんが、現代の日本人は日本語以外の言葉も多く学んでおり、細かな発音の別が区別可能な耳が育っています。

ティッシュをチッシュと言わないように、 ti と chi の音を区別できるのが現代の日本人です。

同じようにシャウ・ショウ・シャフは区別可能です。そう言える理由は、これには先例があり「シャウト」(shout=叫ぶ)、「ショート」(short=短い)、「シャフト」(shaft=軸・芯)という同じ並びの単語があり、きちんと使い分けられているからです。

それにも かかわらず なぜこのように同音となってしまったかと言えば明治大正昭和の MTS時代 に 旧仮名遣いきゅうかなづかいからの置き換えをする際、あるいは外国語の翻訳を行う際に、使うべきでない組み合わせを選択するミスを犯したからです。

いま、日本人は携帯電話というツールを手にし、ほとんど全ての人が手書きではなく機械による文字入力を行うようになっています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれる今後の文書・情報管理の変容の観点からも、もはや紙と鉛筆の時代に戻るということは(趣味や芸術の分野を除いて)考えられないことです。

これを効率よく執り行うためには、日本語の漢字変換が正確に素早く行える必要があります。

これを達成するためには現在の日本語は、上のような同音異義語や同字異音語のような障害が非常に多くあります。これが組織において重大な判断を行うために必要な情報収集の足カセとなっています。

無論、変換システムそのものの進歩やAI(人工知能)などによる文書解析技術も高まってはいますが、それでも日本語そのものを改めることのメリットにはかないません。

重大な判断には重大な責任が伴います。組織が大きくなればなるほど失敗した場合の被害も甚大です。

したがって素早く大量の情報を集める必要があり、また できるだけそれらの情報は短時間で一望し、理解できなければなりません。

音を区別する能力があり、コンピュータで簡単に情報整理可能になったいま、いつまでも不便な音読みを使い続ける必要はもはやないのです。

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