“最新” は形容詞的性格を持つ 名詞で、「最新の○○」または「最新情報」「最新ニュース」「最新版」などのように なにかの名詞と直接連結して 名詞複合語となりやすい単語です。
“細心” も同種ですが、 こちらは 「細心の注意を払う」という 定型句でよく 登場します。ほかのパターン、たとえば「彼の注意は常に細心である」のような異なる語順になることは ほとんどありません。
そのため「最新の」の形を使用しなければ「細心の」と 重なったりすることは まずありません。このパターンが必要なときは1文字加えた「最新型の」「最新版の」「最新式の」と言い換えれば だいたいは 正確に伝えられます。
“再審” “再診” は「サイシンする」と言うことができる動作性名詞です。
“再審” とは 法律や裁判に関する用語であるのに対し、“再診” は 医療に関する用語で 異分野であるので、同じ人が用いる頻度が高いのは 通常どちらか片方だけになります。文脈で自動判定できるケースが大半ですが、時として医療関係の法律に関する記事では判断が難しいこともあるでしょう。
この同音衝突の根本的な問題は “再審” というのが専門用語として固定されているところで、現状では「裁判のやり直し」などと説明されることが多いです。これは “再審理” などと別名を与えれば1文字で対応できます。
“再診” については “再診察” “再診断” “再来診” などが考えられます。“再受診” は「再受信」、“再診療” は「再診料」などと重なるので最適ではありません。
言い換えとしては前述の対応がそれなりにあるのですが、問題は最
と再
が ともに「最○○」「再○○」のように 無限の熟語接頭辞 である点です。
最
であれば 最大 最小 最新 最古 最高 最低 最長 最短 最近 最速 最強 最弱 最有力 最上級 最下位 最安値 最高値 最軽量 最年少など形容的な語、再
なら 再診 再会 再考 再来 再発 再送 再燃 再登板 再共演 など動作性のある語なら 何にでも接続できます。最
と再
が直接衝突するのは太字にした少なくとも 3つがあります。
“最大” は “最大時” としたときに “西大寺” と重なったり、“最古” は “再固着” とか、“最強” は “再教育” のように別の語に接続したときに思いがけず同音語が現れることがあります。
“最新” の新
をたとえば「ティン」にして「サイティン」と読むことも考えうるのですが、“再考” を “再thinking” を言ったりすることもありえるかもしれず、その点で見て、どちらかの文字には別の読みが あるべきではないかという考えがあります。
再
は動作性名詞と付きやすいので、この文字のほうが言い換えはしやすい傾向があります。「再チェック」のようにカタカナ語にするのも比較的容易です。逆に最
の付く “最大” を “最ビッグ” とか、“最強” を “最ストロング” とは 言えません。したがって どちらかというと最
の方が別音が有用に機能すると考えられます。
音でいうと再
は中国語の別れの挨拶である「再見(ツァイチエン:zaijian)」でよく知られていることから「ツァイ」あるいは日本人に発音しやすくした「チャイ」が有力な置き換え候補となります。
しかし欲しいのは最
のほうです。この字の字形に注目すると取
を含みます。最
の小篆以前の字形からすると妥当な表記は㝡
のように宀
+取
で、取
がこの字の本体と言えます。また“撮影” の撮
の一部でもあります。
どれも音が異なり、最
を「サイ」とするのが どこから来たのか怪しいです。取
の古音周辺で「ツイ」あるいは「チュ」が見られ、また カナの「シ」の古音が もともと shi でなくchi であった説もあるため、取
を「シュ」とするのは古来の正しい発音ではないのだろうという推測はできます。そうすると最
もそれに近く 「チュイ」とか「チャイ」あたりが考えられます。
“再診” と “再審” は 再
が共通しているので、仮にこれの音を変えても混同は起こりえます。言い換えできない状況鏡では うしろの「シン」を置き換えることも検討が必要でしょう。
「シン」の置き換えとしては既存の音では「ジン」「ジク」「ジキ」「シキ」「セン」「シツ」などがあり、昭和仮名遣いでの漢音の空き地は「シャン」「シェン」「ション」「チェン」「ジェン」「ジョン」などがあります。
中国普通話から借りると診
は「チャン」「チェン」(zhen3)、審
は「シェン」「シャン」(shen3) あたりの音になるので、このあたりが ひとつの候補となりえます。
診
は㐱
を含み、これを持つものには常用字では珍
があり、また参
の旧字体である參
が該当します。他にも疹
が表外字ですが時々現れます。疹
を除いて音は一致していないため、珍
の「チン」に近い「チャン」や「チェン」は覚えやすい可能性があります。
審
の字は「バン」と読む番
が含まれますが、音は全く違い、会意字であるとされます。よって「シェン」でも「シャン」でも良かろうといえます。ちなみに中国の簡体字は审
が当てられていて、音を優先した文字になっています。
新
は、オノを意味する斤
を部に持つ形声字であり、元の意味は薪
(たきぎ) の意味です。また声符は辛
であるとされます。斤
は「キン」と読みますが、これを含む文字には近
折
質
哲
などがあり「シツ」とか「セツ」の音が現れます。こちらは新
の音とは無関係です。
ゆえに考慮すべきは辛
の音との関連性なのですが、下の部分が木
であるのでイメージしづらくなっています。ただし親
とは同じ「シン」の読みが共通するので、これとは合わせるべきと言えます。ところが親
を中国普通話でひくと「チン(qin)」で、一致してないではないか、ということで、どうもうまく噛み合いません。
新
も いろいろな単語に接続する文字で、“新幹線” “新東京” “新世界” など様々なものがあります。これを「チン」にすると、“珍幹線” とか “珍東京” みたいになってしまって、なかなか皮肉じみて聞こえかねませんから、却下されます。
新
の他に語頭につくのは親
深
真
などが ありますが、新
ほど自由度は高くなく、直接対立はあまりありません。真
が付く新語は なぜか「真・○○」のように間をあける習わしのようなものがあり、聞き分けもできるようになっています。“真剣”vs“親権”vs“新券”という組み合わせもありますが、分野が大きく違うのでほぼ衝突はしません。
ほかの同音としては “維新”vs“威信”、“新旧”vs“鍼灸”、“新田”vs“神殿”vs“寝殿”、“新札”vs“診察” などが ありますが、対立する字は どれも新
より登場頻度が低めです。よってこれは、他の文字の方を移動するほうが影響が小さいと言えます。