カタカナ語の「コート」の もとになる英単語は coat または court で、どちらも多義語です。
“court” は 日本でよく使われるのは バレーボールや サッカー・ラグビーなど、スポーツの対戦をおこなう 線で区切られた空間のことを言います。
この単語は英語だと 裁判所や法廷を指す単語であり、 スポーツ用語とは限りません。特殊な例としては 王宮だとか、広い建物の中庭なども指し、外界とは異なる囲われた空間のことを言います。ショッピングモールだとか、大型施設内にある “フードコート” の コート はこちらです。“食堂街” とは微妙に意味合いが違います。
“coat” は 屋外で 寒さや雨風をしのぐために着る衣服を指し、日本語では “外套着” などとも呼ばれます。“外套” は やや古風な表現で、かわりに上着などとも言えそうですが、これには ジャッケット ( jacket ) なども含み最適な言い換えとは言えません。日本式の “羽織” とか あるいは “被布” とも また違います。
“coat” の もう1つの意味としては、何らかの素材の表面を別の素材で保護することを言い、“皮膜” あるいは “塗装”・“塗布” などと訳されます。これは 調理器具の フッ素コート など加工についての説明に用いられます。
「撥水コート」などと言われると「レインコート」のような単語と微妙に意図の紛らわしさがあり、この場合は “撥水加工” とするか、動名詞で「コーティング」が用いられます。この2つは 原義のcoat が同じなのであって、何から何を保護するものなのかという語を 付け足すより仕方がないと言えます。
用途が重なることは まれな語群ですが、いずれも別の単語に置き換えると 分かりにくかったり 微妙に意味や印象が異なり、難しいものがあります。このことは フードコートのように複合語が 新造されたときに不便を生じます。
多義語であるcoat同士は ともかくとして、 スペルが違う coat と court は、発音も koʊt / kɔɚt と わずかに異なります。これを同一表記にするのは カタカナの欠陥です。
いずれもカナとしては「コウト」に近いものですが、どちらかと言うと court は r が意識されているか、または rt が一体化して 「コード」に近い発音になるようです。
これらは従来のカタカナでも、coatを「コウト」、courtを「コート」と 区別して書くことはできます。
問題は、現代仮名遣いにおいては「おう」の並びは「おー」と発音に区別がないものとなっていて、「そうり(総理)」とか「しましょう」といったときの「う」の扱いの あいまいさです。このルールをカタカナ語と混ぜると、非常に分かりにくくなります。
同種の単語として「おうと(嘔吐)」と「オート(auto)」が 異なるのは明らかですが、発音上はどちらがどう違うか厳密に説明するのは困難です。auto の uは文字通りに「ウ」とは発音しないので なおさら 整理しづらくなっています。
奥の手としては、 r・t を示すには 新カナの一部である小書きカナの ㇿ
やㇳ
が 使用できる可能性があり、“コㇿㇳ” や “コーㇿㇳ” あるいは “コウㇿㇳ” と 書くと、過不足の無い表記が可能です。
問題が残るのは英語表記の u を仮名遣いらしく「ウ」に合わせるのか、発音の「ォー」に合わせるかの選択です。r 部分にㇿ
が使えるならそれを目印に区別は可能ということになります。
細かく見ると 「コ」を 「クォ」「コォ」「コァ」など いくつか別の書き方にすることも考えられますが、英語表記と日本語カナ、ローマ字の母音の微妙なズレがあってかえって複雑になるので、 r にだけ着目するのが無難と言えます。