“汗腺” “幹線” “艦船” “乾癬” “感染” “観戦” は、いずれも「カン」と「セン」の2字の組み合わせからなる 漢字熟語です。
“感染”・“観戦” は「カンセンする」という使い方ができ、他の語に比べると 出現頻度が高い単語になります。
“幹線” が 単独で現われることは多くなく、複合語として “新幹線”、次に “幹線道路” として よく現われます。
“汗腺” は 単独でも現われますが、“アポクリン汗腺” とか 何かのカタカナにくっついて現れることが時々あります。
“艦船” は 軍艦のなどの大型の船またはその他の船の総称、“乾癬” は 皮膚病の一種ですが、この2つの語は登場する場面がかなり限られます。
癬の字は それ自体は多くは使われませんが、 同音の鮮を声符として持つ形声字であり、この 鮮は “鮮度” “朝鮮” “新鮮” “生鮮食品” など いくつかの熟語で比較的一般に多く流通しています。
艦も “軍艦”・“戦艦”・“潜水艦” などいくつか熟語はあるものの その分野の専門家以外は 日常的に使用することは まれです。しかし監の字を部に持っており、“監視” “収監” “監獄” “監禁” など熟語で現われます。“監視” のみ “監視カメラ” で幅広い業種で用いられます。
カの音は合拗音「クヮ」で古く通用していたり現代中国語・広東語でもそれに相当する 発音が残っていたりすることがあります。平成以降の日本語表記でヮが用いられることは ほとんど無いので、読みやすい代用としては「クァ」が考えられます。
ここでは観がこの音に該当し、ローマ字入力マッピングで qa とか kwa に割り当ててあれば ひとまず漢字変換には対応できます。
ここで、汗と幹には干が どちらにも含まれていて同じ音を持ち、線と腺には泉が 含まれています。よって “汗腺” と “幹線” は <形声字に別の音を与えるときは同じ音を他の字にも適用する> というルール下では分けられないということになります。
「カン」と読む干という字は扱いが難しく、同音の幹および乾、あるいは姦の同義の奸と 中国語で代用され、1文字で多義的です。用途の異なる汗は形声字としつつも現代的には「ハン」の音で一致していません。
カナで カ行で書かれる漢字には 中国の発音が 日本語の ハ行 (声門摩擦音とか喉音とか言われる音)に相当する字が いくつもあります。これらは 日本語の古代の発音と 文字の対応が 現在のものと 不一致だったことによる 不完全な転写であるので 必ずしもカ行であるべきとも言えません。
しかし「カン」を「ハン」で代用すると「カンセン」は「ハンセン」となり、“反戦” や “帆船” と衝突するので この組み合わせでは有用ではありません。
このずれに真正面から対応しようと、 仮にカとハの中間、khan に相当するとするならば ローマ字式仮名遣いのような別解を求めることになりますが、現状では変換が 余計に困難になるので この場合は「クㇵン」のような小カナを使うのが 実現の容易な候補のひとつに挙げられます。
干は拼音表記では ganと書かれ、 “干焼蝦仁” など「ガン」の濁音表記される例が見られるので、そちらに寄せるのもひとつの方法です。「ガン」は 顔 願 癌 雁 岸などがあるものの、「カン」よりは同音が少なく衝突しにくなります。
“汗腺” と “幹線” は どうわけるのかの解には、腺の処理方法にもよります。
腺の字は もとは江戸時代に蘭学によって伝わった 医学用語から、いくつかの訳語や造字が行われ、その中で最終的に普及した和製漢字であり、該当する中国読みがたどれません。人体を表わす月に<水が出る処>を示す泉が付いています。
この字には「セン」の他に「すじ」という訓読みが当てられていますので、“汗腺” なら「あせすじ」と読んでも良いと言えます。しかし ふつう「すじ」と言えば筋が変換にも連想にも出てきてしまうので、あまり良くありません。こういう場合、詳解度を上げる音を付け足すのが和語の解法です。
日本語では「海(うみ・み)」「水面(みなも)」「垂水(たるみ)」など「み」がつく「水(みず)」に関連した語句が多く、「泉(いづみ)」もその同根と考えられますが、そこからすれば「みすじ」もしくは「みすぢ」のような和語を組むことができます。
つくりの部分そのままに、「いづみ」を使うことも わかりやすくて良いかもしれません。
音読みで対応する場合 この2つに関しては 同じになりますが、少なくとも他とは分けられます。
「セン」と読む線に関しては、非常に多くの熟語を持ちます。特に列車の路線の名称として 多く使われており、あまり極端に音を変えると影響が大きいです。ここでは、あくまで入力上の問題ととらえ、“swen” とローマ字入力して「スェン」と出るような方法を取れば、実際の発音としてはほぼ変わらないことになります。
この字は 文脈的に自然であれば「ライン」と読める状況もあります。列車では「○○ライナー」などと称するものも少なくありません。
病気以外に コンピュータウイルスや 慣用的な表現にもよく現れる “感染” ですが、この 感については “感じる” として ほぼ和語として完全に定着しており、これも変更可能性が 考えにくい字です。見かけは 減(ゲン) とも似ていますが 減らすことを「減ずる(ゲンずる)」と言うこともあるので 同じにして紛らわしくするわけにも行きません。おそらく感は そのままにするのが最良でしょう。
染 は「セン」と読むことがほとんどで、“愛染”(アイゼン) くらいが唯一 「ゼン」と読みます。しかし「カンゼン」では “完全” などと 衝突してしまうので 使えません。
ザジゼゾ の音は しばしば中華音で見たときに 拼音で r が使われることがあり、染は「ラン」(ran)となります。「ラ」は実際のところ英字のイメージで言えば n と j と r の中間あたりの微妙な発音であるので、日本語の「セン」「ゼン」との 乖離が大きく見えますが 割と珍しくはないようです。
「カンラン」では “観覧” になってしまって これもやはり使えないので、中間的な音を考える必要がありますが、「ニャン」「ジェン」「ヂェン」「デャン」あたりが考えられます。おそらく 前の2つなら日本人にも発音がしやすいでしょう。
“観戦” は 観を「クヮン」「クァン」にすれば済みますが、戦を変えることも考えられます。
戦(戰)は 単(單)を含み、この字は「タン」「ゼン」の読みがあります。禅が「ゼン」と読むのでこの音はイメージは可能ですが、すこし揺らぎがあります。中国音から頼ると「チャン」「ツァン」(zhan4)となり、旧式の日本語で表記しづらいものと言えます。
ローマ字で入力するうえでは chan、tyan、twan など割当られるので利用の余地はあります。