“保管”・“補完”・“補間” は すべて「ホカンする」と言うことのできる 動作性名詞です。
「ホ」と「カン」の音読みの漢字2字の組み合わせにより成り立つ漢字熟語です。
“保管” は分野を問わず 何か物を管理する局面では 広く一般的に用いられます。
いっぽう “補完” と “補間” は、両方ともデジタル技術進歩に伴なって 登場頻度が増えた単語で、分野がやや近いところにあって変換ミスが起こりやすい組み合わせです。しかしそのような分野と関わりが少なければ あまり使わないかもしれません。
“補完” と “補間” は 補の字が共通しているため、もし読み分けるのなら完と間とを分ける必要が出てきます。ほかの管や保、補については、この「ホカン」の組み合わせでは、読み換え必須のものはありません。
ここで、それぞれの漢字の構成を部ごとに分けてみます。
補=衤+甫保=亻+呆完=宀+元管=竹+官間=門+月(日)
間の字は字源を追うと日ではなく月となっています。それを楷書にすると閒となりますが、この字体を目にすることはほぼ無いでしょう。間の読みは「カン」「ケン」が ありますが、月と日の どちらの字も読みが大きく異なる 純粋な会意字です。
それ以外の字は どれも 部首+音符からなる形声字であると考えられます。このうち元は「ゲン」「ガン」、呆は「ホ」「ホウ」の読みを持ち、組み合わさった文字とは少し音のズレがあります。
呆の字は中国語の読みには「タイ」(dai1)があり、口+木から成る別の字と衝突している可能性があります。この立場では日本語の呆は むしろ保の略字であり、保が 子を抱く人の姿を表す会意字であるとされます。
会意字であるならば 大きく音を動かしても 他の字の音への影響を考慮せずに済むのですが、日本語で保の字は ひらがなのほ、カタカナのホの元になっている字でもあり、「タイ」のような かけ離れた 音にしてしまうと連続性が 失なわれます。このため「ホ」「ホウ」以外にするとしても「ボ」「ポ」「ポウ」あたりの、ホの原形を失なわない範囲が限界でしょう。
「ホウ」は呆から連想される簡単な選択肢ですが、「ホウカン」では “奉還” “訪韓” “宝冠” “法官” “砲艦” など、むしろ同音語が増えてしまいます。したがって「ホ」そのままか、“安保”(アンポ) や “健保”(ケンポ) などでも馴染みのある「ポ」の音を持ってくるのが妥当なところと見られます。
残りの字について考えた場合、間以外の 補 完 管については形声字であり、影響が無視できません。
とくに 官については 日本で使われる管 館(舘・館󠄁) 菅 棺で、すべて「カン」で一致しているため、読みの覚えやすさに貢献しています。 “官吏”と“管理”、“入館”と“入棺” など 重なる単語もあるのですが 少数で、ペアの字を読み替えたり、訓読みにして回避できますから、「カン」で そろえておくのが合理的でしょう。
完は元(ゲン・ガン)を含みますが、こちらは音がズレます。浣や院を構成する部でもありますが、院は「イン」と読みますし、浣は “浣腸”(カンチョウ) くらいしか使われない常用漢字外の字で、“灌腸” と書くこともできるので、実はあまり形声字として意識する重要性がありません。
完と、管の部である官とでは、“官僚”vs“完了” や “完成”vs“官製”、さらに“感性” “歓声” “管制” “慣性” で 衝突があり、完の変更はそれなりに効果があります。
この完の字は 日本語では「カン」としか読みませんが、中国普通話では「ワン」(wan2)で、広東語で「ユィン」(jyun4)あたりで、院の読みはこちらに近いと言えます。元だと「ユァン」(yuan2)で これもヤ行に近いです。日本語の「カン」は、古典的な分類では合拗音の「クヮン」もあり、完も もとは合拗音とされます。
間は それ自体は形声字では ないものの、“熱燗”(あつカン)の燗 “簡単”(カンタン)の 簡を構成する部でもあります。間は “世間”(セケン)や “人間”(ニンゲン) のように「ケン」の読みも 少数ながらあります。
“補完” と “補間” を分けるだけなら、“補間” を「ホゲン」とするのが一番手っ取り早いでしょう。ただし数学用語で “補元” という “元” の一種を説明する語 (補要素ともいう)があり、これと重なる可能性が わずかにあります。
数学用語に日本独自の漢字読みを用いるのは 国際化の進んだ現代では ガラパゴス化のリスクが懸念されますから、今さら強いて使う必要はないのですが、積極的に「ゲン」を使うと副作用が生じるということです。“間接” を「ケンセツ」「ゲンセツ」と言うと “建設” “言説” と 重なるなど 他のケースもあります。
保と捕は、「ホカン」の ほかに “保守”vs“捕手”(ホシュ)、“保護”vs“補語”(ホゴ)、“保証”vs“補償”(ホショウ) など 多くはないですが、いくつかの衝突があります。区別することに多少の効果はあります。
補は甫を含み、これ自体が「ホ」と読みます。この甫は 補 捕 舗 浦 哺 輔 に直接含まれ、いづれも「ホ」または “店舗” のようにンに続いて「ポ」と読むのが基本の形声字です。中国語読みでは「フー」(fu)や「プー」(bu) であり、少しズレたところにあります。これらの字が使われる熟語は非常に多く、合わせて変更するようなことをすると かなり影響が大きいものになります。
甫は また博の旧字体 博󠄁など、尃の形でも含まれ、常用の範囲では簿 薄 縛があり、これは「ハク」「バク」と読まれます。簿だけ例外的に「ボ」の読みが浸透しています。このあたりは入声が関わっていると見られますが、字形が異なる点もあり、ある程度近い音が維持できていれば、完全に一緒に扱う必要はないでしょう。
甫の中国語の拼音で表記する fu とは 唇歯摩擦音 という 唇と歯を近づけて出す音になります。現代の外来語の表記では「ホ」に近い音として「フォ」がよく使われ、これをそのまま活用する手があります。「フォ」と「ホ」程度の差なら少なくとも会話の上では間違っても影響はない範囲でしょう。
“補完” は コンピューターで例えば英単語の頭の何文字かを入力した際に 後半が自動で入力されるなどの機能について 補完入力 などと呼ばれ、このような用途では「オート コンプリート (auto complete) 」と言い換えることができます。略語として「コンプ (comp)」だけ使われる場合もありますが、これは compute, compare, compile, component, complicate, compose など 多くの英単語の接頭辞でもあり、場面によっては正しく補完できません。ゆえに 字数と正確性の上で “補完” が 勝ります。
“補間” は 統計で、データが欠損した隙間を 前後や周期性を見て補なうことを呼びますが、デジタルの世界でカメラで記録した画像や録音した音声などを 特に拡大伸長する際に、途中にできるデータの穴を埋める処理を言い、このときには「インターポレーション (interpolation)」と言い換えることもできます。ほかに “中挿” という訳語もありますが、補の持つ「足りてないところに」というニュアンスが抜けます。その点でいうと “補画素” とか “補波形” と表記しても良いかもしれません。多少長くて良いなら “中間補正” “域間補正” などとも言えます。