仮想越境労働力

移民に関する動きが加速しています。

新型コロナヴイルス感染症流行の影響で人の移動が大きく制限され、国際取引や留学にも影響が出ています。その 回復を急ぐためもあってか、 従来よりも緩和の範囲が拡大に向かう方向性が出てきました。

よく知られたとおり、日本では急速な少子高齢化の影響で、労働者として動きづらい高齢者に比して 体力のある若い世代がこれから大きく減ることが予測されています。コロナによる想定外の経済停滞は、その後の問題を乗り越えるためには 今までの計画よりも急がなければならない公算が高くなったこともあるでしょう。

(実質的な)移民を多く受け入れるべき理由として挙げられる理由のひとつに、労働力の減少というのがあります。

人道支援や 国際文化交流など 他の目的も当然ありますが、それらは急いで拡大しなければならないという緊急性はあまりないでしょう。それに対して労働人口減少というのは すでに予定されている未来であり、それをカバーするのに必要な人口についても 一年あたりどれくらいかは ある程度は逆算が可能です。

労働力として招かれる側からして、人口が減るところに行けば 仕事がキツくなることが予想されデメリットが大きいようにも思えますが、必ずしもそうとも言えません。なぜなら土地やインフラなどの既存の 物理的な資産について、ひとり当たりが使用できる総量が増えるからです。一例として日本の持つ海洋面積などは世界的にもかなり広く、少数の労働者や企業が専有すれば当然 1人あたりの取り分は大きくなると予測できます。

問題があるとすれば 高齢者福祉のために必要な税や社会保険料などの負担が大きくのしかかることです。それを上回るだけの資源が配分されるのであれば損ばかりではないと言えるでしょう。

労働力とは

GDP (国内総生産) に対して GNI (国民総所得) という概念が有りますが、この違いは 日本の領土上での生産高の総量を指すか、それに加えて海外子会社などでの生産から得られた報酬や財産所得を加えて計算したものを言います。

日本はすでに所得の多くを海外への投資によって得ており、実際に国内で生産したものを国外に直接販売して得る収益の割合は減っています。代わりに何かを国内で生産しているかと言うと、それは製造のためのシステムやデザイン設計であったり、ビジネスモデルであったりとライセンスや戦略を生産しているというふうにも言えるかもしれません。

昭和や平成の感覚で言うと、労働者というものは、工場だったり農地とか店舗など何か生産できる場所に 出勤 して、そこで1日の作業をして、雇用者から賃金を受け取るのが 広く一般的だと言えるでしょう。

しかしここに来て、インターネットを介したシステムを利用することによって、働き方の自由度が大きく変化しています。こと、コロナでのステイホーム推奨も相まって、リモートワークのような事務所への出社無しに働く方法というのが広く世間に認知され、無用な移動や 施設への集合は避けるべきものとの理解が進んだとも言えます。

このような環境では、「どの場所で生産するか」ということはあまり意味を なさなくなってきます。知的労働の成果物はネットワークを通じてどこにでも移動するので、極端に言えば 期日にさえ間に合うのであれば 海外や もしかすると地球の裏側で仕事をしても良いということになってきます。

ヴァーチァル イミグラント

インターネット システムを使用して働く人の中には、特定の企業など組織に所属せずに、個人として働く人も多く居ます。

典型的な例としては YouTuberや、Uber Eats の配送者などです。他にも Amazon のようなネット上の店舗に出店して別の場所から調達した商品を転売する業者や、Webサイトを制作してその上に 広告を貼って稼ぐなどもあります。

また Apple に iPhone や Mac、Google の Android 、Microsoft の Windows など、コンピューター上で動作するソフトウェアを開発して販売する人も います。Twitterなども「投げ銭」の機能などが出てきており、これを収入にすることもできるでしょう。

世界縦断的なクラウドソーシングの upwork や udemy のようなオンライン教育の配信プラットフォームもあります。

これらのシステムを 提供する開発元の多くはアメリカ企業が大半であり、そこで発生する収支の一部はプラットフォーム利用料のような形で その企業の収益となります。

この形は事実上、一時的に 国外企業によって日本人が雇用されている状態とも考えることができます。

名目では個人事業主であったとしても、その収益をプラットフォームに依存する限りは、販売網やブランド価値を資産として貸借していることと同義です。ちょうど日本が海外に店や工場を設置して、そこで海外の現地従業員を雇用し就業させるのと似たようなものです。違いは、その勤務先がインターネット上の仮想空間にあるか、物理的な土地の上にあるか だけです。

このようにして考えると、日本人の一定割合は すでに「日本の労働者ではない」というふうにも言えるかもしれません。居住地は日本国内であっても、勤務先は (仮想)海外にあるということです。

さらに言えば、労働時間外においても、YouTube のほか Facebook や Twitter など海外のプラットフォームで配信されるコンテンツを見て過ごす人も多いでしょう。そうなると「日本の消費者ではない」となるかもしれません。

小学生がなりたい職業の上位でも YouTuber はランクインするぐらいですから、これからは海外プラットフォームで映像を配信する芸能人の方が 日本のテレビやその他のプラットフォームでの配信者数よりも多くなって、それにより視聴者もさらに流れるというスパイラルが十分予想されます。

最近ではここに加えて、Metaに社名変更したFacebook社を中心に「メタヴァース」と呼ばれるような概念がうまれてきており、仮想現実世界を あたかも現実世界と同じように様々なコミュニケーションのプラットフォームに変えていこうという向きがあります。このことは 単なる動画視聴のようなサービスのみならず、コンサルティングやカウンセリング、遠隔診療のようなものも含めてこれからは物理的近接による取引に代えて行こうという流れが出てくるでしょう。

このようなシステムで考えるポイントは、それによって発生する収益と、そこにかかる課税(社会保険も含む) がどうなのかということです。海外のプラットフォームの提供者は国内に法人がなければそこで雇用保険や厚生年金などの負担はしません。あくまで個人が国民年金や、所得税などの支払いをするのみです。

すなわち社会保障の観点で労働力の大小を考えるときには、仮想空間上の労働力の移動についても考える必要があるということです。

ときどき 外国人の移民が増えると、日本の健康保険などの社会保障が 保険料を負担しない外国人に タダ乗りされてしまうなどと騒がれることがあります。しかし、物理的に日本の土地の上にいる外国人が、物理的な日本の肉体労働に参加している場合、何時間働いたかを把握するのは見えることですから、そこに適正な負担を求めることは過去の仕組みの延長で可能なことです。

それに対して 国外のプラットフォーム事業者に対して 日本国民が 仮想移民労働者として働いた分に対して 保険料を企業負担分として請求するのは 国境と法律の壁があってうまく行かないことでしょう。

原理的には 映像などの配信によって瞬間的に発生した画面上の “枠” や データという知的財産を プラットフォーム事業者に対して販売していると とらえられるため、ここに対して輸出関税を設定し、代替財源とすることは可能かもしれません。しかしこれを達成しようとすると今度は TPPやその他の貿易に関する世界的な協定に手を付けることになり、これも政治的に高いハードルのあることが想定されます。

メタラしい資本主義

ひとつの対処方法としては、直接的な現金を削り取るような徴税の仕組みではなく、仮想通貨とインフレによる資産圧縮です。

たとえば あるプラットフォーム内で使用可能な仮想通貨を、毎月一定額配り続けるようなことをします。最初のうちは希少価値がある通貨も、時間経過とともに価値は少しずつ減り続けます。そうすれば ただ保有しているだけの通貨は、積極的に徴収をせずとも実質的な価値を圧縮可能です。

昨今の政治的な動きで、「新しい資本主義」という いかにして分配するかということがテーマになってきています。もしここで、国家あるいはそれに類する公共的な機関が、何らかの仮想のプラットフォーム、「メタ日本」とでも呼べるようなものを独占していればどうでしょうか。

分配政策として 現金を直接配ったり、控除や減税をするような方法の代わりに、この メタ日本 上で 使用可能な仮想通貨をベーシック インカムのごとく定期的に給付することで代替が可能です。

このときの給付の条件として、現実に国内で居住しているか、日本国籍をもっているかなどを要件にすれば、それに該当することがインセンティヴとなります。

またここで、現金からこのメタ日本通貨を購入する場合や、逆に現金に換金する場合の手数料を徴収することもできるでしょう。ここでも国内居住者であるかどうかで優遇措置を付けることも可能でしょう。これは現実の他のプラットフォームとの間や、他国のシステムとの間に仮想的な為替を設定することと同じ意味を持つことになります。

納税や保険料や各種公共料金の支払いについてもこのメタ日本通貨を使って支払うことができるなら更に便利です。動画などをこのプラットフォーム上に投稿して収益を稼ぎ、一部を現金化、一部を直接納税に回せば換金手数料の支払いを減らして安くできるなどメリットが出てきます。

政治的な実現性は疑わしいですが、たとえば NHKのような半国営の公共機関が軸となって いくつかの国内IT企業が連携すれば 、こういうヴァーチャル世界構築の達成能力は 技術的には 十分あるでしょう。

言語制約

もし日本人が反対にプラットフォームを海外に提供すれば、アメリカと同じように世界の労働力を借りて日本が所得収支を得ることは理論上可能です。しかしここで問題になってくるのは 日本人が使う日本語という言語の壁です。

インターネットは時間と距離を超えるとは言え、日本語で提供されるシステムは外国人からすれば 何が書いているのか読めませんし、そもそもWeb検索で引っかかりすらしません。それぞれ自分が得意な言語で検索をして、分かりやすいものを選択するからです。

唯一可能性があるのは中国語圏です。もともと日本の漢字の多くは 中国で作られたものであり、漢字の使い方が一致している単語については多少の拾い読みは可能です。しかし現在の日本語は中国語とは異なる方向に進化しており、同じ字でも意味が違うものも多数あります。

またカタカナで記述される外来語は不可逆なものがあり、必ずしも元の単語に戻せるとは限りません。“ライト” が 光 なのか 権利 なのか は 前後関係を解読しなければ判断できません。

たとえ自動翻訳が普及した現代でも 日本語では 調整しなければ正しく機能しない問題が残っているということです。

日本人は 英語や中国語をある程度読む能力はありますが、反対に書くことができる人材は希少です。ましてや海外にプラットフォームを提供するとなれば その国の法律や 様々な規制をクリアする必要があり、これには専門用語を読み解くことや、その国のローカルの文化を理解しなければならないこともあるでしょう。

その負担のギャップから 海外のプラットフォームを利用することはあっても逆に提供者となることは あまり例がありません。

今後の言語をどう構築していくかは、増える外国人労働者だけでなく、日本人労働者が仮想移民として国外に脱出していく逆の流れに どう対応できるかにも重要な意味があります。

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