いくつかの入力ソフトには、ローマ字入力の文字の組み合わせを変更可能なものがあります。
例えば下の画像は Google日本語入力の 環境設定画面ですが、「ローマ字テーブル」>「編集…」で設定変更が可能です。Windows/Macを使用している場合は無料で入手でき これが一番早いでしょう。Ubuntu等の Linux系OSでは オープンソースで開発されているMozcで 同じ事ができます。( Mozc は自分でプログラムをコンパイルすれば Mac / Windows でも使用できます。プログラミングスキルがある方はこれを利用したり、開発に関わることも可能です。)

このローマ字テーブルをいじると、うまくやれば入力でかなり楽ができるようになるほか、通常入力不能な特殊な文字でも入力可能になります。たとえば上の図の場合 vve でヹが入力可能です。
ほかにも 促音の例で示したような、 “キック”(kick) を “キㇰク” で置き換えたり、変体仮名の入力を容易にすることも可能でしょう。分かち書きのために未確定かなの途中で使えるスペースも登録可能です。
この入力で特異なのは「次の入力」の存在で、出力に加えて未確定状態で残ります。上の例では「kx」と入力するときに続き未確定のxに置き換わります。xは次の字を小さくするのに使えるので、「kxa」と入力すれば「きぁ」のようになります。
英語と日本語を両方よく使う人にありがちな “クラス” と打ちたくて英語のclassに引きずられ「cla」で始めてしまうクセがあっても、「cl」をくとlにしておくと「clasu」で良く、打ちはじめを消す必要はありません。
“プログラム” などもprとgrを登録していれば「programu」で良く、 “プログラマー” は「programa-」のように打つことができます。“ストリング” もstとtrを登録していれば「sutoringu」が「stringu」で良いので2回減らせます。
カタカナ語をよく使う人は長音記号ーをよく使うかと思いますが、「rt」にーとtを当てると“フロート” を「florto」などにしてキーボード中央に近いキーを持ってきたりできます。
慣れれば初期状態のものよりも快適に入力できるかもしれません。興味があればサンプルをお使いください。リンクを右クリックしてダウンロードし、ローマ字テーブルのウィンドウの下部「編集」からインポートが可能です。
サンプル インポート用 ファイル
※すでに何か設定済みの場合、先にエクスポートでバㇰクアップを作成ください。もとに戻せなくなります。
これを使った場合の入力の例は下記のようになります。
(例文)/(一般的な入力) → (サンプルでの入力)
- ドライバー/doraiba- → draiba-
- プラスチック/purasutikku → prastitku
- キャッシャー/kyassha- → catsha-、catsya-
- トランポリン/toranporinn → tranporin.
- ストロベリー/sutoroberi- → stroberi-
- アレクサンドラ/arekusandora → arecsandra
- ファットスプレッド/fattosupureddo → fattospretdo
- ベストプラクティス/besutopurakuthisu → bestopractyisu、bestopracthisu
- クラムチャウダーヌードル/kuramuchauda-nu-doru → clamuchaudarnurdru
- うゐろう/uwyirou → uwirou
- ウィジェット/wijetto → wwijetto、wxijetto (ゐの出力を避けるため長くなっている)
- ヷイオリン/(無理)→ vvaiorin.
- スラㇰク/ (無理) → slakku、srakku
- たくさんの/takusannno → tacsanno、tacsan.no (大体”んお”→”んの” に補正されますが)
- こんいんとどけをだす。/konninntodokewodasu. → kon.in.todokewodas..
- トランポリンにのる。/toranporinnninoru. → tranporinninor..
- セットアップ・アシスタント/settoappu?asisutanto → settoatpu:,asistanto
- ブラック ライヴズ マター/(1/4空白があるので無理)→ blatku:qlaivuzu:qmata-
- ※これは注意文です。/kome korehachuuibundesu. → :@korehachuuibundes..
あくまでサンプルですので、必要に応じて置き換えてご使用ください。
とくに nにはクセがあります。
“こんなん” をkonnan として入力でき “こんあん” とならない細工が有りますが、これをするより;などを “ん” に設定するほうが便利なこともあります。ローマ字の基本から逸れますが、n をナ行専用とすると、“しんよう” のつもりでsinyouと打って “しにょう” となってしまうのがsi;youで済むため さらに1文字減らすことができます。
その他のアイデア
“ン” をnでなく;にしてしまうように、英語のルールを抜けると ほかにも様々なやり方が考えられます。
拗音(ャュョ) を別の行にする
- ラリルレロ、リャリュリョ
 ( ra ri ru re ro, rya ryu ryo )- ra ri ru re ro, la lu lo
 
- カキクケコ、キャキュキョ
 ( ka ki ku ke ko, kya kyu kyo )- ka ki ku ke ko, qa qu qo
 
- タチツテト、チャチュチョ
 ( ta ti tu te to, cha chu cho )- ta ti tu te to, ca cu co
 
- サシスセソ、シャシュショ
 ( sa si su se so, sha shu sho )- sa si su se so, xa xu xo
 
- ァィゥェォ、ャュョ
 ( xa xi xu xe xo, xya xyu xyo )- _a _i _u _e _o, _ya _yu _yo
- @a @i @u @e @o, @ya @yu @yo
 
- 社長は京都へ出張中
 ( shachou ha kyouto he shucchouchuu ) / 29字- xacou ha qouto he xuccoucuu / 23字=2割減
 
濁点を後付けする
このルールは直接打鍵数を減らすと言うより、キーの空き領域を確保するのに有効です。濁音に使われる D G J Z B P V のキーを他の用途に利用可能になります。
- ガギグゲゴ
- k^a k^i k^u k^e k^o (濁点専用キーを作る)
- kga kgi kgu kge kgo (適当な英字キーで代用)
- kka kki kku kke kko (促音 “っ” は別キーで代用)
 
- ザジズゼゾ
- s^a s^i s^u s^e s^o
- sga sgi sgu sge sgo
- ssa ssi ssu sse sso
 
- バビブベボ、パピプペポ
- h^a h^i h^u h^e h^o, h^^a h^^i h^^u h^^e h^^o
- hga hga hgu hge hgo, hgga hggi hggu hgge hggo
- hha hhi hhu hhe hho, ffa ffi ffu ffe ffo
 
濁音用キーに仮に^で記載していますが、これは あまり打ちやすくありません(JISキーボードだと右小指の上、US配列や Dvorakなどだと中央ですが 最上段で遠い)。後から記号を打つやり方という意味で、gなど母音でない任意のキーを使うこともできます。
k^と入力すればKになり、さらに^を追加すれば ふたたび kに戻るというふうに、濁点を On/Off する方式によれば、スマートフォンや カナ入力など他の入力方式とも動きが似ています。手書きでも濁点を後から書くのとも一致しますから日本語としては自然です。
これで濁音の子音をなくすと、先に例示を省略した濁音+ャュョの割り当てが かなり自由になります。
- ガギグゲゴ、ギャギュギョ
 ( ga gi gu ge go, gya gyu gyo)- k^a k^i k^u k^e k^o, q^a q^u q^o
- kka kki kku kke kko, qqa qqu qqo
 
- ザジズゼゾ、ジャジュジョ
 (za zi zu ze zo, ja ju jo)- s^a s^i s^u s^e s^o, x^a x^u x^o
- ssa ssi ssu sse sso, xxa xxu xxo
 
- ハヒフヘホ、ヒャヒュヒョ
 (ha hi hu he ho, hya hyu hyo)- ha hi hu he ho, ba bu bo
- ha hi hu he ho, va vu vo
 
- バビブベボ、ビャビュビョ
 (ba bi bu be bo, bya byu byo)- h^a h^i h^u h^e h^o, b^a b^u b^o
- hha hhi hhu hhe hho bba bbu bbo
- hga hgi hgu hge hgo vga vgu vgo
 
- 今日病院で重粒子線治療を受けた
 ( kyou byouin de juuryuusisen tiryou wo uketa ) / 4+6+2+12+6+2+5=37字- qou bbouin tte xxuuluusisen tilou wo uketa / 3+6+3+12+5+2+5=36字
 
- 合同研修の募集が終了した
 ( goudou kenshuu no boshuu ga shuuryou sita) / 6+7+2+6+2+8+4=35字- kkouttou kenxuu no hhoxuu kka xuulou sita / 8+6+2+6+3+6+4=35字
 
濁点が増えてくると あまりタイプ数が減らないことが わかりますが、hhやkkなど連続する方法だと 指の移動がないので 見かけよりも負担は小さいです。
日本語の濁音で登場頻度が特に多いのは 助詞や接続詞に使われる “が” “だ” “で” であり、次点で “ば” “じ” “ど” あたりが来ます。ですから GとDだけ残しておいて、他のものだけ使う事も考えられます。
ヤ行を 別の母音字にする
別のアプローチとして、日本語で多い拗音のャュョを、ヤ行ではなく単独の母音としてしまう やり方もあります。他言語で見られる二重母音を1つの記号にしてしまうようなものです。
- アイウエオ、ヤユヨ
 ( a i u e o, ya yu yo)- a i u e o, q v y
 
- ラリルレロ、リャリュリョ
 ( ra ri ru re ro, rya ryu ryo )- ra ri ru re ro, rq rv ry
 
- カキクケコ、キャキュキョ
 (ka ki ku ke ko, kya kyu kyo)- ka ki ku ke ko, kq kv ky
 
- ァィゥェォ、ャュョ
 ( xa xi xu xe xo, xya xyu xyo )- /a /i /u /e /o, /q /v /y
- la li lu le lo lq lv ly (lはエル)
 
- 給料は今日入金の予定
 ( kyuuryou ha kyou nyuukinn no yotei ) / 29字- kvuryu ha kyu nvukinn no ytei / 24字≓2割減
 
- 今日病院で重粒子線治療を受けた
 ( kyou byouin de juuryuusisen tiryou wo uketa ) / 4+6+2+12+6+2+5=37字- kyu byuin de zvurvusisen tiryu wo uketa / 3+5+2+10+5+2+5=32字
 
- 合同研修の募集が終了した
 ( goudou kenshuu no boshuu ga shuuryou sita) / 6+7+2+6+2+8+4=35字- goudou kensvu no bosvu ga svuryu sita / 6+6+2+5+2+6+4=31字
 
ヤ ユ ヨ を ya yu yo と覚えていると かなり違和感が 生じますが、拗音が多い日本語文では おおむね20%程度はタイプ数が減ります。
現代日本語では “キャ” “キュ” “キョ” は “キァ” “キゥ” “キォ” と書いても発音に明確な差は付けられませんから、 小さい ャ ュ ョは 実際のところ不要な文字です。ヤ行と決別して y との関係を断つのも悪くはないです。
このやり方の良いところは、日本語の1拍が必ず 1〜2打になることです。発声時とリズムが近くなり、ストレスが軽減されます。
かつて日本語では、“ちょうちょう” を “てふてふ” とか、“しましょう” を “しませふ” とか 旧仮名遣いで 記述していたわけですが、このころの 見かけの音素と拍数が一致する状況を、キーボード上で再現するのに近いものがあります。
また最初から拗音を含む ジャジュジョ用のJのキーが余るようになりますが、このキーは右手人差し指の最も押しやすい位置にあります。これをファンクションキー的な位置づけにすると、かなり効果的に使えます。
単独のんにすることもできますし、っに割り当てると “キャッシュ” (kyasshu) を “kwjsv” とか、“あれっ” というような末尾に来る場合などに便利です。
もちろんyを残し、jを “ョ” に 割り当てることも可能です。 jを「ジ」と読むのは、現代英語の発音を意識したもので普遍的とは言えず、たとえば Jで始まる “Jerusalem” などは、日本では「エルサレム (イェルサレム) 」と呼ぶように伝わっていたりします。“Judah” は「ユダ」あるいは「ユダヤ」として知られます。“ャュョ” のどれかを示すのにjをyの代わりに使うのは 案外自然なものとも言えます。
よくある日本語のショートカット
子音が連続するものや、記号の組み合わせで、英文で あまり現れないものについては ショートカットさせられます。
- です。→ ds.
- ます。 → ms.
- ですます調 → dsmschou
- わたし → wtasi
促音の っを個別キーにしている場合は さらに
- わたし → wtsi
- ときどき → tkdki
- ときです。 → tkds.
- ときだとすると、 → tkidtoslt.
なども候補に考えられます。
あまり複雑だと かえって扱いにくくなるので、「子音連続したときは常に aを省略したと みなす」など ルールを そろえたほうが良いかもしれません。
デメリット
さて、こういう設定を施すと大変便利ではありますが、その一方で問題がないわけではありません。
まず慣れればなれるほど、他のコンピューターでの入力がやりにくくなります。買い替えたときなど自分のものであれば また設定すれば よいですが、会社その他の共有品の場合はそうも行かないでしょう。
他にも何かの資格試験など、CBT (コンピューター入力式テスト) などを受験する場合には打ち直しが増えて困るかもしれません。
また、あまりに普通ではないマッピングをすると、正しいローマ字の つづり方を忘れてしまうかもしれません。