“自己” という表現は “自分” や “自身” などと比較すると己
の字が一般語句であまり用いられず、もともと 哲学的なアイデンティティのニュアンスを含んでいますが、近年特に「自己責任」という表現が出現し、使われやすくなっています。
自己責任とは英語の “AT YOUR OWN RISK” と記される定型句の対訳のひとつで、インターネットで無料配布されているフリー ソフトウェアや、ファンドや株式投資などの世界で、利用者がもし損失を被ったとしても提供元がその弁済には応じられないということを言い、財力を持たない新興の提供元を保護する意味合いが有りますが、現在ではもっぱら単に 個人のミスを社会が助けない という社会的遺棄のニュアンスが出てきていて語義が揺らいでいます。
このときの “自己” は 責任が自分に帰する という意味で、“帰自” あるいは “帰自的な” のように動作漢字を 語頭に取る熟語を作ると 違う言葉に言い換えが可能です。
“自己申告” などの熟語では これは 自
も己
も続く“申告” の動作主を指しているので、“自己責任” とは漢字は同じでも意味が微妙に違います。このケースは “自主申告” や、“自発的申告” のように重複的な己
を省いて主格らしさのある漢字を はさんで 言い換えることができます。
“事故” に関しては “交通事故“ のように決まりきった複合語、かつ語尾に来る場合はまず間違われません。しかし単独の “事故” は 「ジコの損害」「ジコの原因」のように前に来ると あいまいさが生じ、変換ミスも生じやすくなります。
「アクシデント」「トラブル」のような英語由来のカタカナ語表現への言い換えや “事件” ”衝突” “揉め事” “不具合” のようにも言い換えられますが、規模感の認識がうまく合わせづらいです。
“自己” と “事故” はいずれも名詞で、「ジ」「コ」のカナで1拍づつの読みを持つ文字の組み合わせからなります。
この カナ1拍の字には アクセントの付け方の選択肢が2択になり、会話でも区別しづらい傾向があります。「ハシ」と読む橋
と箸
と端
の3つが良い例で、2拍の単語で これ以上の区別はできません。自
事
己
故
どれも「ジイ」「コウ」のように伸ばしたりするか、特殊な発音にずらすことになります。
己
は音読みでは「コ」しか使われず、訓読みでは「おのれ」がありますが、熟語には字数が多くあまり使いやすくありません。己
はカタカナのコ
や ひらがなのこ
の元になった字でもあり、これ以外の読みを与えるのは混乱の元で あまり好ましくありません。
故
の字は古
の字を音符として持つ 形声字で、これの音だけを動かすと 覚えにくくなるので 同時に変更するのが良いことになります。仮に動かすなら 現代中国語音などから「ク」「クウ」あたりの音を 用いることになるでしょう。
事
には「ズ」の音がありますが “好事”(コウズ)などの 一部特殊な語に限られていますが、同音は図
豆
頭
主
など比較的少数です。図
や豆
は厳密に言うと「ヅ」なのでこれを分けて扱うならさらに少ないです。
また 中国普通話で「シー」(shi4) の音があります。ただ事
は単語末に現れやすく、「くるしい」「たのしい」のように形容詞と紛らわしい表現になります。その意味では延ばさず「シ」のほうが使いやすいですが、そうすると死
市
詩
氏
子
師
など余計に衝突が増えます。
そこを踏まえつつ サ行やザ行で それらしき発音を探すなら「ゼ」や「シェ」など考えられます。「シェ」は「ジ」「シ」からは少し離れますが、母音で イ と エ の関係は “セイ” のカナの多くが「セエ」と発音するように近い関係にあります。
自
は通常音読みでは「ジ」としか読まず、訓読みで自ず・自惚れる・自らなど いくつかクセのある単語がありますが “自ら” 以外は あまり使われない常用漢字表外の訓で、読みやすくはありません。現代の中国語普通話の読みを頼ると「ツー」(zi4) のようになり、これは日本語同様に “自分から” のような意味でよく登場します。
この「ツー」の音を頼りに 元の「ジ」と中間を取れば「ツ」「チ」また イ→エ の母音交替をかけた「ジェ」「ツェ」などの音が候補に上がると考えられます。