“象徴” “省庁” “小腸” は、いずれも名詞です。 “象徴” のみ「○○をショウチョウする」のように動詞として用いられます。いずれも少し堅めの用語で、日常的な会話で出るケースは まれです。
“省庁” と “小腸” は 発音のアクセントとしては差異がなく、“象徴” のみ別です。同一文書に出てくる可能性としては “小腸” だけが別で、ほか2つは たとえば 象徴天皇と省庁についての話などでは 混在しうるでしょう。話し言葉と書き言葉では、 問題になる組み合わせが異なります。
ここで、あいだにある “省庁” の読みだけが変われば、少なくともこの3つの語の 衝突は回避できることになります。
庁
の字は中に丁
を含む形声字で「チョウ」または「テイ」とも読めます。旧字は廳
で、广
に聴
の旧字を含めたものです。丁
は釘とか頂などの意味がありますが 同音の字を持ってきただけで意味は無関係です。旧字体と新字体で 声符が異なるため、どちらの音に合わせるか 定まらないという問題があります。
省
のほうはどうかというと、こちらは「ショウ」のほか、常用漢字の範囲内では “反省”の「セイ」があります。しかし「セイチョウ」では “成長” などと重なるので使えません。現在の 中国普通話から とるなら「ション(ク゚)」(sheng3)または「シン」(xin3) があります。日本の呉音で末音が「ウ」であるものが ng(ŋ) に対応しているケースはよくありますが、現在の日本語ではこの音は「ン」と書きながら その異音として そう読みます。そうすると「ションチョウ」と書くことになりますが、同音はなく問題は少ないでしょう。
他の音としては「ショウ」の旧仮名遣いから「シャウ」と書くことも考えられます。また同時に「ウ」(ngに相当すると思われる) を「ン」にして「シャン」とすることも できるでしょう。
上部に少
が含まれていますが、この字は砂
や沙
など「シャ」「サ」音を持ち、「セイ」の音を持つ省
の字は直接関係しない会意字だと考えられます。音は生
や正
に近く、甲骨文字では眚
と同一の字だったものが 後に分化したものとされます。よって必ずしも少
の字と同じ音を維持する必要はありません。
省
は 意味的に <はぶく> は 可能としても <かえりみる> を少
から連想することは やや無理があります (幼少の頃を目に浮かべる とか、目を小さくすぼめてよく見ることだ、などという説明は かなり想像力を要します) 。「かえりみる」には “顧みる” という字もあります。行政組織としての省
は、もはや封建社会の律令制度を執っているわけでもないのですから、近代的な意味に合わせ 字を置き換えるべきかもしれません。たとえば府
庁
に並ぶように㢓
庠
廂
庰
廟
庨
㢇
㡵
などそれっぽく見える代用字はいくつか考えられますが、字を変えるのなら 議論の土台が 覆ります。
象
は「ショウ」のほか、「ゾウ」とも読みますが、「ゾウチョウ」だと “増長” になるので、やはり単純にこれだけではうまくいきません。旧仮名遣いで「ザウ」の読みと記法があるのでそれか、また普通話をもってくるなら「シャン」(xiang4)とも読めます。「ゾウ」「ザウ」の方に ng のルールを適用すると、「ゾン」「ザン」とする方法も考えられますが、これは 存
(ゾン) や 残
斬
惨
懺
竄
(ザン) など、多くはないですが いくつか既存字があります。
徴
は、“特徴”vs“特長”(トクチョウ)、“成長”vs“性徴”(セイチョウ)、“徴収”vs“聴衆”(チョウシュウ) 、“徴用”vs“重用”(チョウヨウ) など、目立たないですが いくつかの同音語があり、これの変更は いくらか有益性があります。
この字はもともと 読むのに少し難しく、中央下部が王
であることが多少のヒントになりますが、旧字体は徵
(中央が山
+一
+壬
)なので実は王
とは関係なく、“呈する”の呈
や廷
などと関連のある字です。単独では「しるし」とも読みますが、奥にあるものを引きずり出すという意味があるとされます。“微妙”の微
とも似ていて紛らわしいので 簡略化は仕方がないのですが、もとの音は どちらかというと「テイ」「ティン」「ヂン」に寄っていると考えられます。
中国普通話を頼ると「チョン」(zheng1) に対応しますが、簡体字では征
が使われ、日本の新字体で 声符と見られる壬
が捨てられているので、音の意義を導くのは無理があり、形声でない会意字だと見るべきかも知れません。唯一 意識する点は “懲らしめる” の 懲
にも含まれるので これと合わせておくというところのみでしょう。懲
を使う熟語は“懲罰” “懲戒”(チョウカイ) などがありますが、ここが「チョン」や「ティン」になっても 特に影響はありません。
“象徴” は シンボル、“象徴する” はシンボライズすると言い換える事ができるので、文脈に合うならそのほうが早いかもしれません。
小
の字については 極めて広範に用いられる接頭語であり、“小学校” “小選挙区” “小編成” “小動物” など いくらでも単語を作ることができます。したがって この字の読みを変えた場合に、他のどこに影響するか想定することは 不可能です。
小
の現行の普通話を頼ると「シァオ」(xiao3) で、広東語なら「シウ」(siu2) が 得られます。この字は “小籠包” など中国料理名などでも 現れるので (そのまま日本語読みで「ショウ」と読まれやすいですが) もしかしたら日本でも聞くことがあるかも知れません。日本語の 旧仮名遣いでは “セウ” とも書かれるので、これも候補になるかもしれません。あるいは変則的ですが “小さい” と書いて訓読みで「ちいさい」と読みますから、ここから「チー」の読みを見出しても良いかも知れません。
腸
は訓読みで「はらわた」「わた」の読みがあり、“小腸”に関して言えば「こわた」と訓読みしても良いかも知れませんが、大腸・結腸・盲腸・腸炎・腸閉塞 など 熟語は少なくないので 少し使いづらさがあります。
腸
は 他の臓器と 異なり、伸びるとか広がるの意味を持つことから旁に昜
を用いた 会意形声字であると説明されます。
昜
は 場
(ジョウ)・湯
(トウ)・陽
揚
(ヨウ)・傷
(ショウ) など 結構発音に揺れがあります。 腸
は中国普通話から取るとこれもやはり ng型 の「チャン」(chang2)となります。他もすべて「ン」で合わせるとなると大変ではありますが、腸
の用途は分野限定的であるのでここだけ「チョン」でも影響は少ないと考えられます。