一般的に「シカク」と読む熟語は、シ+角
の2字からなる多数と、格
や客
のように各
を部としてもつものと覚
が付くものに分けられます。いずれも前の部分が修飾的な役割で後ろが それを受ける名詞です。
また合拗音(クヮ)を使用する漢字( 拡・画・郭 など)もありません。
覚
は何かというと これの旧字は覺
であり、これは𦥯
を部に持つ文字でこれ自体には「ガク」の音があります。古い学校の開学史に時々「〇〇尋常學校」のような表記があったりしますが、この學
の省略形を使った形成文字です。
普通に考えれば同じ「ガク」の読み与えても良さそうなものですが、濁点というものがない鎌倉以前の極めて古い時代から仏教用語などにも使われ熟語が多く、いずれも「カク」として定着しています。訓読みでも「おぼえる」「さめる」「さとる」や その活用で複数の読みがあります。
このような文字の音を変更すると熟語への影響が大きいのですが、逆に上手くすれば同音語を大きく減らす効果が期待できます(自覚vs字画、触覚vs触角、覚醒vs拡声など)。また特に同じ部を持つ字としては学
・撹
など数が少ないため、連鎖的に別の字に与える影響が小さくなります。
ここでは元の音「ガク」に近い「ゲク」あるいは「ケク」あたりが良い候補となるでしょう。
「刺客」は古くは「セッカク」と読んだとされ、17世紀ごろには「シカク」の読みが定着したとされますが、よく「シキャク」と読み間違えられます。
クイズ趣味なら そこで読み間違え として終わりですが、同音異義語の衝突が多く発生する上によく読み間違えられるとなれば、そちらを正とする方が賢い選択です。
「セッカク」は「折角」と衝突するので あえて選択する意義は ないでしょう。
残りは格
と角
ですが、見ての通り角
は その読みを変えても「視角」と「四角」と「死角」の3つが衝突したまま解決しません。
「資格」の資
は呉音漢音ともに「シ」で揺るぎないポジションですが冠(上部)の次
には「ジ」の音があります。ただし「次第(シダイ)」のように「シ」と読むこともあります。「姿勢(シセイ)」の姿
のように同音の別の字もあります。
資
の字を「ジ」と読む熟語はなく、投資・出資・増資・合資や、別資料などに至っても「ジ」に連濁(濁点がついて音が濁ること)が起こることもありません。
これと同じことが「視角」の視
にもあてはまり、軽視・重視・透視・監視などいずれも「シ」と発音しますし、この偏の⺭
あるいは旧字形の⺬
は⽰偏(しめすへん)と呼ばれますが、「図示(ずし)」や「暗示(あんじ)」のように「シ」と「ジ」の両方で読まれます。
視
と資
に 特徴的なのは、どちらも 1字では意味をなさないことです。訓読みにすると「みる」や「たから」などの読み方ができますが、音読みでは ほとんどの場合何かの文字と熟語を作ります。
この点、死
や四
と違うところです。
「シ」に近い音としては「シェ」「チ」「チェ」「サイ」「スイ」「セイ」など考えられますが、仮に死
を「チ」にすれば血
や地
、「サイ」なら才
や賽
と 1字の 別の語と衝突します。
「シェ」や「チェ」のような古典的日本語では使用しない音を使えば氏
・師
・市
・詩
・志
などとの衝突を回避できるようになり便利ですが、死
に関しては「死ぬ」あるいは「死す」と いう極めて広く使われる動作名詞でもあり、動かすとしても浸透に膨大な年月がかかることが予想されますから、非現実的な改訂となることは明らかです。詩
をチェイ、市
をシティーなどにするほうが よほど簡単でしょう。
そうすると視
と資
の両方の音を変える方が早いということになりますが、「セイカク」は「正確」、「サイカク」は「才覚」、「スイカク」は「酔客」、「チカク」は「知覚」と重なることから、チェ
・シェ
・ジェ
の どれかを どちらかに当てるしかありません。
視
は「視角に入る」と「死角に入る」の ような他の同音語と 文章上 同じような組み合わせ方がされることがあると考えると、どちらかと言えば「シェ」より 音が遠い「チェ」音の方が、会話でも区別しやすくなり有効な可能性があります。
視聴vs試聴、視察vs刺殺、監視vs漢詩、投資vs透視 など、 他のところにもこの音を当てるとさらに良く機能することが考えられます。
では資
なら どうかといえば、減資vs原子、資料vs飼料、資質vs脂質、投資vs透視 などありますが、視
の字よりかは衝突の度合いが まだ少ない傾向があります。資
の字は 特に金融系の用語が多いですが、この業界は グローバルに展開され積極的に 英語を使う傾向があり、衝突を回避する術を持っています。すなわちインベストメント、ファンド、アセット、リソースなどの表現です。
よって消去法的に 資
には「シェ」音を当てるのが上位候補に上がります。
のこる四角については、「よんかく」としてしまうのが一番簡単です。
後ろが「カク」の音読みですから いわゆる湯桶読みで不自然な部類ですが、三角形・四角形・五角形のようにいくらでも数を変えられることからすれば、角
とは角形
の略であり、そこに数が 付いただけと見れば どちらでも良いということになり、さほど不思議ではありません。「四体」とか「四棟」と同じです。
特に「七角形」や「十四角形」はそれぞれ「なな」や「じゅうよん」と読むこともありますから、四角だけ音読みに揃えることに大して意味がないことが分かります。