“固持” と “固辞” は漢字クイズに出されるような紛らわしい言葉の代表格で、誤解を招きやすいのであまり積極的に使用すべきではありませんが、時事ニュースなどでは時々出現するので読解知識としては必要になることがあります。前者は固い意思を貫くこと、後者は何らかの役目を頑なに拒むことを言います。
固
の字を持つ語が2つあることから、区別しようとすると後ろの持
か辞
のどちらかを変更する必要があります。
ここで辞
は 旧字体では辭
というかなり複雑な字を持ちますが、これは一般に「やめる」の読みがある他に、辛
の字が針を人体に突き刺す刺激を表し刑罰を与えており、言い訳をして逃れる様を表しているとか、かなり痛々しい意味を持っています。この左の偏(へん)は乱
と同じ意味です。
辞
には “謝辞” や “祝辞” 、“辞典” など単にメッセージの意味合いもあるのですが、字源は少々危険な文字で、あまり良い使い方はしづらいものです。
この文字は意味を合わせた会意文字であり、音を変更したとしても他への影響がありません。中国語の普通話拼音ではci2と表され「ツウ↗︎」のような発音で異なっており、総合的に見て今の日本語の「ジ」の読みを残す重要性は あまり ありません。
それらを踏まえると使いやすい「ジ」よりももう少し忌避される音を使用しても良さそうで、日本語では使わない「ジェ」「チェ」「ツェ」「チㇷ」などを当てるという選択が考えられます。ローマ字ならje, zhe, che, tse, tche などです。
誇
は「コ」と読みますがこれは慣用音とされます。古くは「カ」の音もありますが、“驕誇”(キョウカ)などのレアな熟語が あるくらいで、ほとんど一般的な熟語では「コ」が用いられます。
示
は「ジ」の呉音読みが多数ですが、“示唆”(しさ)など一部の語では「シ」の漢音読みがされます。
動詞になり得る “固持” や “固辞” と区別するためであれば「コシする」あるいは「カシする」のようにすれば回避できます。
故事・古事・孤児はそれぞれ名詞ですが、使用される文脈はかなり異なり、あまり混同することはないですが、分け方はあります。
“孤児”の児
は「ジ」の漢音読みする例が多いですが、 “小児科”(しょうにか)のように、「ニ」の呉音読みがあります。「ニ」の読みを好んで使うと“自動”vs“児童“(ジドウ)や“園児”vs“臙脂”(エンジ/色の名前)などの単語でも衝突回避が可能になりますから有用です。
“故事”と“古事”は どちらも ほぼ同じ意味で、最近の使われ方では簡単な “古事” だけで大抵の場合は通用するでしょう。
突っ込んでいうと、古
は純粋に 古いということを表しているのに対し⺙
(のぶん:⽁
の変形)が付いた故
は時代が経った過去からの変化を強調する文字です。古
だと今 目の前にある古いものを言うことができますが、故
はもう消えたもので、そこにあるものを指しては使いません。たとえば “故人” は死んでしまってもう会えない人のことを言います。
ですからもう消えた過去のものという意味では、ちょうど事
に「ズ」の呉音読みを使うという手法が考えられます。
事
を「ズ」と読むのは “好事”(コウズ)などのかなり古い語に限られており、“故事成語” のようなやや専門的な熟語に限って用いるというのであれば異なる音を用いるというのもあり得るかもしれません。
ほかにもう少し簡単なやり方では“古事” は「ふるごと」と訓読みし、“故事” は「ゆえごと」とすれば区別可能です。