“昨日” と書いて「きのう」と読むことが できますが、“機能” または “帰納” を用いることがある人にとっては誤変換を起こしやすい読み方です。
「きのう」は名詞であるとともに副詞としても使われ、「それはきのうした」「それはきのうだ」などの文型で衝突を起こします。
これは音読みで「サクジツ」あるいは「サクニチ」とする習慣をつけるとほぼ衝突はなくなります。 (“朔日”という語はありますが、現代の暦では使用しません)
文字メディアの場合、副詞の用途では ひらがなの “きのう” が好まれます。これは「きのう東京で」のような直後に地名や主語が続くような文章で単語境界を わかりやすくします。文頭で“きのう” まで打った段階で一度確定すれば変換に困らずに 済みます。
“帰納” は 帰
と納
の字から成りますが、このうち帰
の字は旧字では歸
と書きます。日本語では呉音漢音ともに「キ」としか発音しないため、そのまま読み替えはできません。
いっぽう納
の字は“納品”(ノウヒン)や“収納”(シュウノウ)など「ノウ」と読むのが普通ですが、 “納豆“(ナットウ)・“納戸”(ナンド)・“納屋”(ナヤ)・“出納帳”(スイトウチョウ)のように 発音が様々に変化します。
糸や縄で物を縛り、建物へ入る様子を表す会意字ですが、内
の部分とは音を共通にしていません(中国 普通話拼音でもnaとneiで異なります)。
納
の字の音が難しいのは、nap という発音が大陸の一部であり、この最後の p の字が日本語では末尾に母音のないカナが無いことに加え、昔は半濁音「プ」も無かったことから表記が「ナフ」となり、これが仮名遣いの変遷を経て 「なふ」→「のう」となったと見ることができます。
現在一般的な「ノウ」の読みは日本外の地域には見られず、「ナ」の方が正統性があるように見えます。したがって “帰納” に対しては “納戸”(ナンド) の「ナン」を使って「キナン」とすると比較的簡単に回避することができます。
ただ「ナン」と読む字には難
南
何
軟
があり、 そのため「キナン」は“紀南” となる他 “納戸”の「ナンド」は “何度” や “難度” と重なっていてあまり使い勝手が良い読みではありません。 そこを解消するならば 古典に ならって 「キナフ」に戻すか、フ
の部分だけ現代仮名遣いの「キナウ」としたり、現代のウがオと発音されることから「キナオ」とするなどが考えられます。
“既納” は “未納” に対する対義語で、役所や公共料金等の支払いが済んでいることを表す比較的新しい表現です。この語は既
と未
が 対義語の関係にあり、それに“納付”の短縮ともいえる“納” 一字を付けたためですが少し特殊な表現です。
納
の変更をしても “帰納”と“既納” の衝突回避には役に立ちませんから、変更するとすれば既
の音を変更する必要がありますが、この字も一般的に「キ」としか読まれず、変更が難しい字です。
それよりも分かりやすさという観点で言えば、似た語で 未
と済
という組み合わせもあるため 納付済・納付未 とも書き変えができるでしょう。
あるいは 「納め済み」として送り仮名の省略で「納済」とする表記もできるかもしれません。
“機能” は 機
と能
の字の熟語です。
このうち機
の字は 木
へんに 幾
(キ)から成り立っており、複雑な飾り付けをした 戈
(ほこ)と人
が 合わさっています。似た字に畿
がありますが、これも同じ「キ」の読みがあります。
中国的な読み方では 「チー( ji1)」となりますが、機
の字は “農機” “建機” “重機” のように末尾にもよく登場するので「チー」はあまり使い勝手は良くありません。「チ」と縮めると “農地” や “見地” などとも衝突しやすくこれもあまり良くありません。
その上に幾
はひらがなのき
の元になった字で、これを変更するとその関連が崩れます。
いっぽう能
の方は「ノウ」と読むのが普通ですが、“能登(ノト)”の「ノ」や三重県の能部(ノンベ)の「ノン」、万能倉(マナグラ)の「ナ」など、地名にはいくつか例外的な読みがあります。
このうち「ノン」ならば「キノン」とすると他に同音語がないので軽微な変更で逃しやすいところかと考えられます。
他に この字は「タイ」あるいは濁って「ダイ」の別音があるとされますが、日本語でそのような読み方をする例は見当たりません。一方中国読みを当たると「ナイ(nai4)」の読みがあり、古くは耐
の代用になっていたとされます。日本語では “態度” が タイ の音を持っており、これと同系であると考えられます。 (態
の字は現在の中国簡体字では同音の态
に簡略化されています)
このあたりからすると“機能” は「キナイ」「キタイ」「キダイ」などの読み替えが考えられますが「キナイ」は “機内”、「キタイ」は “機体” と紛らわしいので消去法的に 「キダイ」が使えると考えられます。
本質的改良ではないですが、この語については英語でFunction(ファンクション)と訳されることから、場面次第ではこちらを使う方が良いかもしれません。また文脈によっては“新機能”・“付加機能” などの 付け足しによって誤解を防ぐことも考えられます。特に “新機能” では誤変換が生じることは まずありません。