「カイ」の音に 開, 海, 改, 回, 怪, 戒, 邂 の7つ、「コウ」の音に 校, 講, 溝, 港, 口, 坑, 稿, 航, 光, 逅 の 10を 組み合わせてできる熟語12個です。
これらは現代仮名遣いで合拗音が使えなくなった影響で同音衝突が起きやすくなったことが原因の1つにあります。
はもともと「クヮイ」です。「コウ」に関しては伝統的な日本語の表記にはないですが中国語では「クォー」や「クァン」と読むものがあります。回
・怪
また「コウ」に関して後ろの「ウ」は見せかけの母音で、言文一致主義なら「コオ」と書くことも考えられます。
の字を用いる語句が5つもあり、この「カイ」の音を変えても同音語は解消しません。開
改
の字もそうですが、動作性名詞「カイコウする」を作りますので文型から品詞がわかっても判断できません。
文脈的に誤解する可能性があるのは“開講”と“開校”で、開かれるものの規模が違います。
講
の字は呉音漢音ともに「コウ」と読み、冓
を部に持つ会意形声字です。“構える”(かまえる)とも偏が違うだけで別の字ですが、冓
だけでも「かまえ」と 読みますから、辞書にはありませんが講
もそう読んでもあながち間違いともいえません。
「コウ」には旧仮名遣いで「カウ」と書かれていたものがありますが、「かまえ」の「か」だけ連れてくると考えると「カウ」をあてるに適した字かもしれません。
ほかに講
の字は現在の中国普通話拼音ではjian3と記され「ジァン」のように発音されます(「コウ」に近いのは広東語のほうです)。「コウ」と「ジァン」では違いすぎて分かりにくいですが、「カイジャン」であれば他との衝突はなくなります。
校
の字は普通「コウ」の漢音しか用いられませんが、これは “学校” など若年者がよく使う単語が常識となって他に影響している可能性があります。呉音は「キョウ」と読み、“校合”(キョウゴウ)・“検校”(ケンギョウ) などの熟語があります。旧仮名遣いだと「カウ」あるいは「ケウ」となります。
この字は普通話拼音では xiao4または jiao4となり「シャオ」「ジァオ」のように発音されます。
日本語や古語と中間的な音を取るなら「キャオ」「カオ」「シャウ」「ジャウ」などが候補に挙げられます。
ただし部にもつ交
と音を共通としているため、変更する場合はこちらの影響も考える必要があります。
“開港”の港
も呉音漢音ともに「コウ」としてしか読めない文字です。旧仮名遣いなら「カウ」と書くことができます。拼音だとguan3となり「グァン」「クァン」のように発音されます。末音が「ウ」「オ」ではなく「ン」になるところがポイントです。
この語に関しては訓読みで「みなとびらき」とするほうが他の語との混同がなく良いかもしれません。“開港”とは並びが逆ですが、下手に特殊な読みをするよりは分かりやすいでしょう。
口
に関しては漢音の「コウ」の他、“口調”(クチョウ) や “口説く”(くどく)など「ク」を呉音として持つことが知られます。
“開口”に関しては「カイク」とすることができますが、“海区” ともやや紛らわしくなります。文脈的にほぼ衝突はないですが、1音の「ク」は区
苦
句
九
などがあるため、「クク」「グク」のように音を重ねることが考えられます。このとき「クク」はローマ字で書くなら kkuで、これは語尾の場合「ック」と促音化することもあるでしょう。英語で kickとか checkのように ckのようなものと考えると自然です。または「ンク」となる撥音化も1つの方法です。
“開坑”の坑
は土の下に掘った穴のことです。坑
の字は航
や杭
と共通の部を持つ形声字で、このうち木へんの杭
は「クイ」の読みがありますから、これに揃えると覚えやすくなります。「カイクイ」という語はないのでこれを用いると楽に回避可能です。
ちなみに普通話拼音ではkeng1と書き「コン」「コク゚」のような音になりますが、開墾や悔恨などと紛らわしいのでこの音をそのまま使うことはできません。
海
の字には“上海(シャンハイ)” や “鴻海(ホンハイ)” など有名ですが、唐音でもある「ハイ」の読み方があります。「ハイ」にも拝
廃
排
など多くの字がありますが「カイ」と比べれば少ないことからこちらに逃がすと比較的区別しやすくなります。
それでも“廃校”や“廃坑” とも紛らわしいとするならハングルの해
から とって「ヘ」を使う手も考えられます。“海港” なら「ヘコウ」です。「ヘ」は意外にも音読では屁
くらいしかなく、訓読でも“八戸”(はちのへ)くらいです。
このとき変に「イ」を残して「ヘイコウ」だと“平行” などにあたるので良くありません。1文字の「ヘ」にこだわる必要があります。
海を用いるのは “海港” もあります。“開港” で示したように「コウ」「コオ」「カウ」「グァン」「クァン」など考えられます。
溝
は講
と同じで「コウ」または旧仮名遣いで「カウ」です。普通話だとgou1「ゴウ」です。港
の方を「クァン」などに変えない場合は溝
は「ゴウ」で濁音にして避けることになります。
ここで同じ旁をもつ航
を使う“回航” の語もありますが、これもあわせて「クイ」とすると覚えやすさの点では良いです。ただしこの字は普通話拼音だとhang2で「ハァン」のような発音を持ちます。
回
の字は合拗音の「クヮイ」の他、“回紇”(ウイグル)の「ウイ」や “回鍋肉”(ホイコーロー)の「ホイ」など日本でも知られる語の音があります。「クァイクイ」では少し発音が難しいですが、代わりに「ウイクイ」や「ホイクイ」あたりに逃すことと発音も簡単にできます。
“改稿” の稿
の字は、旁に高
を持つ形声字で、これも「コウ」としか読めません。普通話拼音では gao3となり「ガオ」のように発音します。高
もgao3です。
改
の方は呉音漢音ともに「カイ」としかならず、普通話拼音だとgai3つまり「ガイ」です。
組み合わせとして衝突を避けるなら「ガイカオ」か「カイガオ」のどちらかに濁点をつけることが考えられます。
残るのはややマニアックな単語です。
“戒光” とは京都の地名、あるいは人名で固有名詞です。戒
、光
はいずれも常用漢字に ありますが、固有名詞である以上、変更は当事者の意思によります。
“邂逅” は偶然の出会い、思いがけない出会いという意味ですが、邂
の字も逅
の字も 常用漢字では ありませんので積極的に使う理由はありません。現代では英訳表現のencounter(エンカウント)などの方が意味が通じるかもしれません。
この2語については使用する局面が非常に限られていることから特段の変更は不要と考えられます。強いて実施するなら邂
をクェ・グェ(qwe/gue) 光
にクヮウ(kwau)の文字を当てるなど考えられます。
邂
は辶
(にょう)をとった解
の字の熟語で“解毒”(ゲドク) があるように「ゲ」の読みを呉音に持っており、同じように「ゲ」の音を用いることもできますが、これだけだと“下校”(ゲコウ) と重なるのでうまくいきません。逅
が にょう辶
をとった后
で“皇后”(コウゴウ)のように濁音を用いるので、この読みを借りてきて「ゲゴウ」とすると回避可能です。
“怪光” は謎の怪しい光のことですが、怪
はもともと「クヮイ」の合拗音であるほか、もののけの「け」の読みがあります。ここから「けびかり」の訓読にすることが考えられます。
「カイコウ」だと必須ではないですが、光
は “変更”と“偏光” とか “光線”と“交戦” など衝突を起こしがちな文字であるので何らかの別音を考えておくのは有効と考えられます。