“貿易” と “防疫” は、ともに「ボウエキする」ということが できる 動作性名詞です。といっても誰もが 日常気軽に行なうようなものではないため、普通名詞という理解が一般的でしょう。どちらも「ボウ」「エキ」の読みをもつ 漢字2字で構成され、行動を表わす漢字が1字目に付いています。
貿
は卯
「ボウ」を音符とする形声字です。この卯
の字は 干支の うさぎ を意味する字で訓読み「う」がありますが、音読みは ほとんど意識されないでしょう。地中に掘った巣穴や洞穴にエサなどを秘蔵する意味があります。
卯
の字を部に持つ他の字に柳
(リュウ)がありますが、読みが異なります。ほかには昴
(ボウ) がありますが、訓読みの「すばる」が知られるものの、音読みの「ボウ」は ほとんど利用例がありません。
貿
の上部は右側が刀
で、留
などとも同じです。こちらは「リュウ」または「ル」と読みます。劉備玄徳の 劉
などもありますが、これも「リュウ」です。
貿
には “貿易” 以外に熟語は ほとんど無く (固有名詞を除く)、したがって貿
と卯
とを 両方とも読みを変更しても副作用が出る可能性は限定的です。
留
や柳
などの「リュウ」の読みを借り、「リュウエキ」としてしまうのも1つの手です。 “流液” と重なるかもしれませんが、使用頻度は低く 影響は ほぼ無いと考えられます。むしろ “流域”(リュウイキ) との聞き違いが心配されます。
貿
は日本語では「ボウ」としか読みませんが、中国普通話では「マオ↘︎」(mao4)と読まれます。これをそのまま使っても良いですが、mの音だけ借りて「リュウ」と絡め、「ミュウ」なども一案です。「ビュウ」と異なりよく使われる外来語 (viewなど)との同音衝突がありません。
易
はトカゲを表した象形字で、尻尾が切れたり住みかに合わせて体色を擬態する変幻自在なことを示します。古く “賜る”(たまわる) の字の代わりに使用されていて、財貨を受ける意味があるとされます。他に錫
(すず)を構成する部としても現れますが、音は「セキ」で直接関係ありません。横線の1つ多い場
などとも無関係です。
易
は「エキ」の他に「イ」の読みもあります。ただ、1音で 胃
以
位
などを はじめとして 非常に多くの同音があるのでこちらの読みはあまり好んで使うと問題が出やすくなります。
「イ」と「エキ」の離れた音があるのは もともと ek のような末尾に母音を持たない入声を使う字だったとからと推測されます。この入声タイプは末尾子音が完全に消えたり、母音に「ィ(i)」や「ゥ(u)」が追加されたりします。 節
に “節分” (セツブン) と “お節”(おセチ) と末尾母音に両方普及している例もありますが、「エキ」ならば「エク」でも古典的には誤りではないと言えます。cake(ケーキ) と make(メーク) の表記差のようなものです。
疫
は一般には ”疫病”(エキビョウ)・“免疫”(メンエキ) など「エキ」の読みだけが用いられますが、役
の音を借りたものと見られ、「エキ」「ヤク」両方の読みがあると考えられます。こちらも末音が不定で、現代の広東語などから見ても入声と考えられます。
構成部の殳
は他にも 設
・殺
(セツ)、没
(ボツ)、投
(トウ)、殴
(オウ)、股
(コ)、般
(ハン)、段
(ダン)、殿
(デン) など多くの文字で使われますが音が かなり幅があります。手で何かを持って振り回す意味があり、その何かが武器の場合と工具の場合とで、2系統の意味合いに分かれると見られます。
“防疫” を “貿易” と区別することを考えた場合、疫
を「ヤク」として「ボウヤク」にすれば ひとまず回避できます。ただし「ヤク」は 約
訳
薬
厄
と “焼く” があり、その意味では末音だけ変えて「エク」で とどめることも考えられます。そうすると “厄病”(ヤクビョウ) と “疫病” が衝突せずに済みます。
防
を変更するのも検討できますが、この字は方
を含む形声字であり音をあまり遠ざけにくいことに加え、語頭に立って熟語構成一部とされやすいため変更が難しい文字です。防止・防衛・防御のような純粋な熟語のほか、防水・防虫・防風・防火・防犯・防災・防音・防臭・防塵 などなど何にでも自由に付けられ、すべて「ボウ」で読まれます。
中国普通話では「ファン」(fang2) なので、これに寄せる手もありますが難易度は高く、疫
を動かすほうが早いです。