漢字テスト
日本では漢字を覚えることが大変に知的なことで、そのために極めて長い時間と費用をかけています。小学校から大人になるまで20年かけても覚えきれないほどのたくさんの漢字があります。
この膨大な漢字を操ることの意義を、どうも勘違いしていると思われるのが漢字テストです。
もともと日本の漢字は同じ文字に対して多数の読みがあります。たとえば「あり得る」を読む際は「ありうる」と「ありえる」の2通りの流派があります。
言語的強さの観点で言えば、ありうる
は 在り売る
という語句と衝突可能性があるので そのような読みは廃止してしまった方が合理的ではあるのですが、いまだ なお現役です。
その一方で、若者が生み出す新たな造語や特に俗語と思われるような読みには極めて消極的で、「面倒臭い」を「めんどくさい」とか「氷」を「コーリ」などとカナを振れば間違いなく❌を つけられることでしょう。
「出納帳」を「しゅつのうちょう」などと見たまま読むのは たとえ聞き手が100%誤解なく理解できるとしても誤りとされます。
「代替」は「だいたい」ですが、「だいがえ」とすると「代替え」の「え」が無いので これも たいていは誤りになります。そのくせ世間を見ると「取消」や「両替」のように送り仮名を省いた表記があふれています。
「映える」は「はえる」か「ばえる」か
近年の主に若い世代や女性などを中心に、Instagram(インスタグラム)のような写真をアートを友人や知人に見せて共感して楽しむ(シェアする)行為が盛んです。
このときに 「映える(はえる)」または「見栄え(みばえ)する」ことを指して「インスタ映え」などと表現します。
もう少し一般的にTwitterやTikTokや かつてのFlickrやあるいはFacebookのような、広く全般的なサービスを指して「SNS映え」と総称することもあります。
この単語は長いですから、よく略して「バエる」とだけ、一種のファッションとして発言されます。
しかしこの単語は よくよく考えると単なる流行語としてではなく、日本語として優れていることが わかります。
まず 「ばえる」は「はえる」と違って同音語の動詞がありません。
「聞けば得るものがある」に対し「聞け、バエるものがある」のような複数語を続ければ衝突が無いと言い切れませんが、句点 無く一気に読めば後者と勘違いすることはまずありません。
「はえる」と発音すると「毛が生える」「カビが生える」「木が生える」というような 生命の成長を あらわす 語句と衝突を起こします。
古代の日本においては、生命の成長こそが価値あることであり、それゆえ「生える」も「映える」も どちらも「はえる」という1つの やまとことば で解決できたのかもしれませんが、現代の「映える」とは「芸術的価値があること」を あらわす異なる意味を持つ単語へと昇華しています。
ですから 映える という漢字に対して 「バエる」という読みを割り当てることは、合理的なことです。
画一的な採点はやめよう
他でも記載した通り、現代は人工知能の活用が進む時代です。
もしあなたが国語教師だったり、漢字の採点をおこなう立場なら一度ぜひ考えてみてほしいのです。
学生や周りの誰かが、もしかすると答案に上に あげた「映える」の読みとして「バエる」という読みを解答に書く人が現れるかもしれません。
そんな時、ほとんどの人なら「何をバカなことを…」と一蹴してバツをつけるでしょう。
ですがそのような採点のあり方は もはや人間の仕事では ありません。
辞書や教科書に載っている読みだけを正として それと異なっていれば常に誤答としてしまうなら、それはもうコンピュータによる自動採点で十分です。
もし、真に創造的なこととは何なのか、将来の日本の国語の価値を高めることは何なのか、日本語を大切に思う気持ちがあるなら踏みとどまるべきです。
機械にできることは機械に任せ、人間は人間にしかできないクリエイティブなことをする。いかにして合理的かつ、人の感情を計りながらより優れた言語を組み上げるか、これこそが現代の日本語のプロフェッショナルに求められる道であると考えます。