現在の漢字はその名の通り中国の漢をルーツとする文字であり、それが日本を含む東アジアへ広まりました。それぞれの地域にはそれぞれの地域にしか無い文化や宗教、自然の生態系があり、そのため見かけは漢字でも独自の改良が施され、新たな文字が生み出されたり、反対に不要なものは使われなくなり消滅しつつあるものもあります。
同じ漢字でも読み方が各地で違っているのは当然のこと、それに加えて例えば鮎
を日本でアユの意味が中国ではナマズであるなど、意味が違っているものもたくさんあります。
こういった読みが異なるケースにも問題がありますが、それ以上に厄介なのは国内の同音異義語(同音異字語)です。
「ケン」という読みには名詞だけでも件
、県
、圏
、剣
、券
、腱
がありますし、「ヨウ」という読みには用
、様
、曜
、要
などがあります。
これによる弊害は次のようなものがあります。
- コンピュータで入力の際、誤変換の原因になる、選ぶ手間がかかる
- 会話で意味を取り違える、音声入力が機能しない
- ローマ字で表記すると同じ文字になり、元の字が区別不能になる
- 辞書、名簿等の同音語同志で並び順が予想できず、探しにくい
スマートフォンが普及して誰でも音声入力が できる現代でも、相変わらず入力の不便は解消されず、効率が上がりません。この入力と確認の手間こそが、手書きの方が優位になる点であり、日本のデジタル化を阻害する要因の1つでもあります。
元来、日本では大陸をルーツとしている音読みの中に、特に呉音・漢音と呼ばれる伝来した時代が異なる2系統の漢字の読みがあります。
たとえば経
の字は「ケイ」と「キョウ」と熟語によって異なる読みを持っています。名
は「メイ」と「ミョウ」、生
は「セイ」と「ショウ」などです。
このような読みの違いは、後の時代にできた言葉が新しい読み(漢音)を採用しているのに対し、古い単語が古い読み方(呉音)のまま生き残っている名残です。
つまり文字を必要に応じて再整理するのは 国の内外、時代の新旧を問わず、行われてきたことです。必要であれば 古い読みを廃し、新しい読みを 取り入れてきたのです。
ですから、もし今の漢字の読みの衝突が 日本語の運用において不便なら、漢字カナの振り直しをすれば良いのです。
現在の中国で生きている漢字について、例えば「華音」とか「人民音」とか適当な名前をつけて再輸入して音を付け足しても良いですし、日本独自の「令和音」として改めても別に構わないのです。
ここでは特定の漢字読みのパターンに対して、考えうる別の読みを列挙します。
リスト
組み替え方はいくつか考えられますが、ここではまず母音(拗音・長音 含む)の組み合わせで、音節の発声変換を扱います。
たとえば 甲
という文字には「コウ」と「カン」の2つの読みがあり、これは最初の子音 k を そのままに、続く「ォウ」音と「ァン」音を入れ替えたという風に見ることができます。
米
の字で「メイ」と「ベイ」が あるように子音字が遷移しているパターンも見られますが こちらは一旦後にします。
また熟語で中間にあるものは除きます。
たとえば「対応(タイオウ/taiou)」などは「ァイ(ai)」と「ォウ(ou)」は含めますが「ィオ(io)」のように2字の中間にあるものは除きます。
「香る(カオル)」は「ァオ」に入りますが「羽織る(ハオル)」は別とします。厳密には現在1字でも語源をさかのぼれば2語であったであろう単語もありますが、ここでは含めません。
「氷(コオリ)」などは かつて「コホリ」であったものがハ行転呼に よってヲ音となり それがさらに 現代仮名遣いでオとなったと言うような歴史的な変化があるものの、そのような過去の話は無視して考えます。
ケイと書いてケーと読むような昭和式現代仮名遣い特有の長音ルールもここでは考えません。あくまで表記通り発音するものとし、「セーフ」と「政府(せいふ)」、「ケーキ」と「景気(けいき)」、「ソーダ」と「操舵(そうだ)」、「ノード」と「濃度(のうど)」は 由来に かかわらず それぞれ別の音とします。
凍る(こおる)とコール(call)の違いは基本的には現行の外来語かどうかの扱いとともに、二重母音の後半にアクセントが生じ得るかどうかの違いによります。他に「トーク」と「遠く(とおく)」や「シール」と「強いる(しいる)」のように、準日本語として定着しているカタカナ語の区別に典型的なもので、異なる発音法則を持つとして扱います。
この長音記号は現代日本語で使用頻度が低下した仏教用語や儒教用語などを逃がすのに使う余地があります。(「梵語=ボンゴ」の梵
の読みを ボー として、「盆後」と区別するなど)
下記の表で単語例が空き地の場所には近い別の語句を移動させる余地があります。(ただしカタカナ語や方言、熟語と衝突する可能性があるため個別に考慮は必要です)
「サツ」のような音は「s+ア・t+ウ」の2拍2音節として扱い、それぞれに母音の置き換えができるとして考えます。たとえば「s+ヤ・t+ウ」として「シャツ」や「スァツ」、「サチュ」などに置き換え得ると言うことです。
なお日本語の入力と発音体系の不便を調整する目的の列のため、音読み訓読みの区別は行いません。
アイウエオ
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ァ | a | × | 葉(ハ)、差(サ)、名(ナ) |
ァア | aa | ○ | 母さん(カア) (間合い など) |
ァイ | ai | × | 愛(アイ)、才(サイ)、内(ナイ) |
ァウ | au | × | 這う(ハウ)、舞う(マウ)、担う(ニナウ) |
ァエ | au | × | 耐える(タエ-)、和える(アエ-)、帰る(カエ-) |
ァオ | ao | △ | 青(アオ)、竿(サオ)、顔(カオ) |
ァン | an | × | 案(アン)、欄(ラン)、段(ダン) |
ァー | a- | △ | - (ハード、カール[英] など) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ィ | i | × | 意(イ)、死(シ)、日(ヒ) |
ィア | ia | △ | - (似合う、見合う、ティア[英]など) |
ィイ | ii | × | 爺(ジイ)、新潟(ニイ-)、椎茸(シイ-) |
ィウ | iu | × | 言う(イウ) |
ィエ | ie | × | 潰える(ツイエ-)、煮える(ニエ-)、冷える(ヒエ-) |
ィオ | io | △ | 臭う(ニオ-)、塩(シオ)、栞(シオリ) |
ィン | in | × | 印(イン)、品(ヒン)、瓶(ビン) |
ィー | i- | △ | - (シート、キープ、ミート[英]など) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ゥ | u | × | 酢(ス)、府(フ)、区(ク) |
ゥア | ua | ○ | - (tour=ツアー、lure=ルアー[英]、不安[熟語]など) |
ゥイ | ui | × | 杭(クイ)、水(スイ)、髄(ズイ) |
ゥウ | uu | × | 数(スウ)、風(フウ)、空(クウ) |
ゥエ | ue | × | 杖(ツエ)、末(スエ)、増える(フエ-) |
ゥオ | uo | ○ | 魚(ウオ) |
ゥン | un | × | 運(ウン)、訓(クン)、文(ブン) |
ゥー | u- | △ | - (スープ、ルーム[英]など) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ェ | e | × | 絵(エ)、毛(ケ)、目(メ) |
ェア | ea | ○ | - (ケア[カタカナ語]、毛穴[熟語]など) |
ェイ | ei | × | 映画(エイ-)、性(セイ)、兵(ヘイ) |
ェウ | eu | ○ | - (稀有=ケウ、手打ちなど熟語 |
ェエ | ee | △ | - (エイに同化) |
ェオ | eo | △ | - (夫婦=メオト、背負うなど熟語) |
ェン | en | × | 線(セン)、変(ヘン)、面(メン) |
ェー | e- | △ | - (エース、セール、メール/ェイと混同) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ォア | oa | × | -(粗悪、素案など熟語) |
ォイ | oi | × | 老いる(オイ-)、恋(コイ)、問(トイ) |
ォウ | ou | × | 王(オウ)、追う(オウ)、方(ホウ) |
ォエ | oe | × | 終える(オエ-)、超える(コエ-)、添える(ソエ-) |
ォオ | oo | × | コオロギ、通る(トオ-)、氷(コオリ) |
ォン | on | × | 音(オン)、本(ホン)、盆(ボン) |
ォー | o- | △ | - (all=オール、ball=ボール[英]など) |
ヤユヨ
ヤユヨを日本語で母音として扱うのは議論のあるところですが、i+a, i+u, i+oの連続音としての見方をしています。
ローマ字(日本式)でkya、sya、tya、hya、rya、zyaなどとなるので入力上は子音字のように見えますが、日本語ではこれを小文字ャュョ
として記述できるため、ァィゥェォ
と同等に扱っても差し支えないものとしています。
具体例で言えば 「生」の字には「ショウ(syou)」と「セイ(sei)」の2音があり、sの後の部分の ヨウ(you) が エイ(ei) に変化したとみたほうが該当例が多く都合が良いです。
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ャ | ya | × | 矢(ヤ)、茶(チャ)、社(シャ)、 客(キャク)、尺(シャク)、着(チャク) |
ャア | yaa | ○ | - (邪悪[熟語]など) |
ャイ | yai | ○ | - (社員[熟語]、違い=ちゃい[大阪弁]、shine[英]など) |
ャウ | yau | ○ | - (社運[熟語]、違う=ちゃう[大阪弁]、shout[英]など) |
ャエ | yau | ○ | - (射影、舎営[熟語]など) |
ャオ | yao | ○ | - (中国、イタリア語など) |
ャン | yan | ○ | - (ちゃんと、ジャンプなど) |
ャー | yaa | △ | - (sharp=シャープ[英語]など) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ュ | yu | × | 湯(ユ)、種(シュ)、主(シュ) |
ュア | yua | ○ | - (pure=ビュア、cure=キュア[英]など) |
ュイ | yui | ○ | - (首位、アンニュイなど) |
ュウ(ィュ) | yuu | × | 雄(ユウ)、 急(キュウ)、龍(リュウ)、週(シュウ) |
ュエ | yue | × | 故(ユエ) |
ュオ | yuo | ○ | - |
ュン | yun | △ | 旬(シュン)、順(ジュン) |
ュー | yu- | × | - (you=ユー、queue=キュー、shoe=シュー[英]など) |
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ョ | yo | × | 世(ヨ)、序(ジョ)、虚(キョ) |
ョア | yoa | ○ | - (諸悪、巨悪、夜明け[熟語]など) |
ョイ | yoi | × | 酔(ヨイ)、良い(ヨイ) |
ョウ(ィョ) | you | × | 賞(ショウ/ショー)、表(ヒョウ)、方(ホウ/ホー) |
ョエ | yoe | ○ | - (初演=ショエン、虚栄=キョエイ[熟語]など) |
ョオ | yoo | ○ | - (女王=ジョオウ、巨億=キョオク[熟語]など) |
ョン | yon | ○ | 四(ヨン) |
ョー | yo- | △ | - (short=ショート) |
イェ音
カタカナ語でよく使われる特別な表記です。現在の日本の漢字に該当する文字はありません。
「イェーイ」のような表記は今の日本人なら難なく読めるものですから、これを使わない手はありません。
セイと読むことのできる 生
、聖
、正
、成
、制
のうち いずれかを「シェイ」 とするなど、活用余地があります。ここには「静的」と「性的」、「正規」と「性器」など 変換を間違えると 不適切な表現になり得る組み合わせがありますが、それも簡単に追いやることができます。
ただし「セーフ」と「急いて(せいて)」など い
を読む傾向のある日本語と絶対読まない語の両方あるセイ/セーと違って、シェイには該当する日本語が今の所はないため誰も慣れておらず、シェイとシェエとシェーの3つを区別するのは難しく、どれか1つを取り入れる程度に とどめるべきでしょう。
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ィェ | ye | ○ | – (シェ、チェ、ジェ) |
ィェア | yea | ○ | – (シェア、チェア) |
ィェイ | yei | ○ | – (shape=シェイプ、chase=チェイス[英]など) |
ィェウ | yeu | △ | – (シェウ、チェウ 発音に難あり) |
ィェエ | yeu | △ | – (シェエ、チェエ 発音に難あり) |
ィェオ | yeu | △ | – (シェオ、チェオ 発音に難あり) |
ィェン | yen | ○ | – (シェン、チェン、ジェン) |
ィェー | yeu | △ | – (シェー、チェー、ジェー) |
ワヰウヱヲ
ワ行に関しては ヤ行以上に議論のあるところですが、これも母音のように扱えるとします。
もともと日本語の古語ではカイ
(kai)とクヮイ
(kwai)は別物で、後者のような音を合拗音と呼びます。(グヮイという濁音もあります)
この「クヮイ」の音は、会長 と 怪鳥 と 階調 と 快調 と 開帳 を区別するのには大変都合の良い表現なのですが、コンピュータでワをヮと小文字で入力するのは簡単ではありません。
ローマ字入力でkwa、swa、twaなどで小文字が入力できるような設定がされなければならず、スマホにも何らか仕組みの改良が必要でハードルは高いです。
ゎ
・ヮ
の使いどころとしては イの段であるキ・シ・チ・リの後ろにャ・ュ・ョが来てキャ・シュ・チョ・リャのように書くように、ウの段のク・ス・フの後ろに来てクヮスヮフヮなどについては比較的安定して使えるでしょう。
ヮ
をァ
によって代用しないのには意味があり、これは明確にw音がそこに存在することを示す意味があります。
例えば 英語の fun あるいは fan の意味でカタカナで「ファン」と書くことがあり、ここにはwの音はありません。ヮ
を使って「フヮン」あるいはhwanと入力した時、「ファン」とは別の語であるというマークとなり、これは漢字変換システムを助けるほか、読む際には必要に応じて「フ ワ ン」とゆっくり発音することで耳慣れない発音を聞き取りやすくする使い方が可能になります。
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ヮ | wa | × | 輪(ワ)、和(ワ)、かい |
ヮイ | wai | △ | 猥褻(ワイ-) (Y=ワイ、wife、swipeなど) |
ヮウ | wau | △ | - |
ヮエ | wae | △ | - |
ヮオ | wao | △ | - (和音=ワオン[熟語]、waonなど) |
ヮン | wan | × | 椀(ワン)、湾(ワン) |
ヮー | wa- | △ | - (world=ワールド、work=ワーク[英]など) |
またさらにヰ
やヱ
は小文字が無くUnicodeの改訂まで必要になってしまいます。当面はウィ
とウェ
の代用として使う程度が限界です。(ちなみに濁点付きのヷヸヴヹヺは現Unicodeで存在するため、バイオリンをヴァイオリンと書く代わりに、ヷイオリンと書くことは可能です。)
ヲ
についてはさらに厄介です。
カタカナ語であればまだ問題はありませんが、ひらがなの「を」は現行の日本語では助詞としての用途が基本だからです。おまけにこれは「うぉ」とは発音しないことになっています。
Google でも、「乙女」を意味する「をとめ」を検索すると「手をとめる」など おかしなものが引っかかってしまうなど、日本語として解釈が怪しいところがあります。
これをうまく使うには分かち書きの使用を前提とするか、単に文字の扱い方のみならず、文法の問題に手をつける必要が出てきます。
英語の初級単語の water、want、wallなど /wo/ の発音は もはや日本人にとってはごく自然なものです。ローマ字入力で wo と書くヲ
をウォ
の代用として使う事が一般化するのは十分期待できます。それからの話になるかもしれません。
しばらくの所 無難な用途としては中国、韓国人の人名や地名など漢字を使用するが平仮名を用いずカタカナで代用する語句などに限られてくるでしょう。
読み(カナ) | ローマ字打ち | 空き | 単語例 |
---|---|---|---|
ゥィ(ヰ) | wi | ○ | - (ウヰスキー、sweet=スィート, tweet=ツィート など) |
ゥェ(ヱ) | we | ○ | - (sweat=スェット、twenty=ツェンティ など) |
ゥォ(ヲ) | wo | ○ | - (sword=ソード、 swatch=スウォッチ など) |